2019 Fiscal Year Research-status Report
クレズマー音楽の変容プロセス――音楽の社会的機能と演奏家の思想との関係から――
Project/Area Number |
18K12258
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
三代 真理子 東京藝術大学, 音楽学部, 助手 (30756820)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | クレズマー音楽 / 中東欧ユダヤ音楽 / 音楽的変容 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中東欧ユダヤ民俗音楽からワールドミュージックへ発展したクレズマー音楽の歴史的変容を4時代区分、1)中東欧時代、2)ニューヨーク時代、3)復興の時代、4)現代に分けて明らかにするものである。 今年度は第一に、1)の音楽的特徴を、東アシュケナージ系の祈祷歌の旋法的特性との比較分析から考察した。対象はアドノイモロフ旋法とアハヴォ・ラボ旋法に基づく曲である。その結果、上記二つの旋法に基づく旋律では、両音楽とも使用する音階や、転旋パターンに共通性が見られ、また旋律型や旋律線にも重要な類似性があることを明らかにし、クレズマー音楽が、東アシュケナージ系の祈祷歌の旋法的特徴を受け継いでいることを示した。その成果の一部は6月に実施した西洋中世学会でのシンポジウムで報告した。 第二に4)現代の演奏様式の解明を実施した。まず現代クレズマー音楽の現状把握のため、オンライン情報、録音資料、文献資料に基づき、演奏団体数、地域的分布、活動内容、音楽様式を調査した。その過程で①クレズマーを主に演奏する団体と、②他ジャンルも演奏する団体の存在を確認し、①の団体の演奏内容を「他ジャンルとの融合」が主であるもの、復興期以前の伝統様式に忠実な「伝統的クレズマー」、伝統の中で新たな現代性を生む「現代的クレズマー」に大別、更に細かく調査した。続いて、現代の主要三団体(復興を牽引し、かつ現在も活動継続中の団体)について、録音物における曲目と様式分析を行い、昨年度の聴取調査の成果と合わせ、彼らが「復興期」以前の様式から継承したものと新たに加えたものに関して考察した。 第三に前年度から継続している、現代クレズマー音楽の伝承について、民俗音楽が音楽祭を通じて曲目や様式を次世代に伝承されている現状と意義を音楽教育の点から考察し、その成果を論文(東京藝術大学音楽教育研究室『音楽教育研究ジャーナル』52号)にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の四時代区分のうち、現在までに1)の一部と3)、4)について調査を終了し、1)と2)について取り組み中である。1)については3年前に新たに発見されたウクライナ国立図書館所蔵の楽譜集の解析を引き続き実施する。また2)については当時の演奏家や団体および音源の調査をほぼ終えているが、レパートリーと演奏様式の分析と考察を行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
1.曲目の分析 上記四時代区分における1)中東欧時代のウクライナ国立図書館所蔵の民俗学者ズスマン・キセルゴフによる手稿譜に収められた曲目を整理する。 2.音楽構造の分析 1)のキセルゴフによる手稿譜、および2)移民時代の演奏録音と楽譜資料から、それぞれの時代の音楽構造について、旋法、旋律、リズムと拍子、和音進行等の点から分析を行う。 3.曲目と音楽構造の変遷に関する分析と考察 四時代区分に基づいて、各時期の曲目と音楽構造を整理し、時代の移り変わりに伴う変化について分析を行う。そのうえで各時期の音楽の社会的機能と演奏家の思想(演奏動機や音楽性)との関連から音楽的変容について考察を行う。 4.国内外での成果発表 中東欧時代から現在に至るまでのクレズマー音楽の構造と曲目の変容と要因に関する研究成果を学会で発表する。
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Causes of Carryover |
研究計画時に予定していたドイツおよび米国への渡航を延期したため。
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