2021 Fiscal Year Annual Research Report
The Transformation in Klezmer Music
Project/Area Number |
18K12258
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
三代 真理子 東京藝術大学, 音楽学部, 助手 (30756820)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | クレズマー音楽 / 伝統的なジャンル / 現代 / リズム、旋律、様式 / 感覚と情緒 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではクレズマー音楽の歴史的変遷を四時代区分、1)中東欧時代、2)ニューヨーク時代、3)復興の時代、4)現代に分けて明らかにした。今年度は、1)中東欧時代について当時のユダヤ人社会で現地収集されたズスマン・キセルゴフの手稿譜の収録曲を調査し、20世紀初期の米国のクレズマー音楽のレパートリーとの比較を行った。また4)現代の音楽家の伝統的なジャンルに対する認識に着目し、その演奏・創作活動の分析から、現代クレズマー音楽の曲目や音楽構造がそれ以前の時代から続く伝統をいかに継承しているかを調査した。調査はスティーブン・グリーンマン氏の思想と活動を中心に実施した。彼は東欧に由来するクレズマー音楽の伝統的なジャンルを演奏と創作の中心にするとともに、ユダヤの宗教的な精神と作品を深く結びつけている音楽家である。調査の結果、グリーンマン氏は、クレズマー音楽の各ジャンルは音楽的内容(リズム、旋律、様式)により明確に区別されると同時に、夫々が独特な感覚と情緒を持つと考えていることが分かった。具体的には、彼はガス・ニグン、ドブリーデン等の聴くためのジャンルでは、①物語のような旋律構成法による芸術性の追求、②4小節単位のフレーズ構成、③フレーズ、セクション間に十分な休止を置き、旋律のフレージングを重要視する。一方、ホシドゥルという舞曲は強いハシッド派の声楽的内容を持ち、フレイラハスという舞曲は陽気な弾みと同時に威厳を持つと考えている。そして彼自身の創作では、こうしたジャンル毎の構造や情緒をできる限り保持しようと努めながら独自の作品の創作に取り組んでいる。このような分析結果から、20世紀初期まではユダヤ人社会の暮らしの一部であったクレズマー音楽の伝統的なジャンルは、その文脈が失われた今でも、その音楽的内容と、かつての機能の結びつく感覚と情緒を保持したまま継承されていると考えられる。
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