2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K12286
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
河村 瑛子 京都大学, 文学研究科, 助教 (80781947)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 古俳諧 / 初期俳諧 / 貞門 / 談林 / 芭蕉 / 黒川道祐 |
Outline of Annual Research Achievements |
近世前期に盛行した貞門・談林の古俳諧は、俗語を豊富に掬い取り、言葉の連想(前近代人の共通認識)を軸として展開する文芸であり、語の精密な意味合いや古人の世界観を解明する上で重要な作品群である。しかしながら、資料の膨大さと文学史的評価の低調さのために、従来、本格的研究が殆どなされなかった。このような状況に鑑み、本研究では、古俳諧の資料基盤の整備と、貞門俳諧の所産である連想語辞書『俳諧類船集』の注釈研究、さらに、その成果を活用した古典研究を行うことで学術基盤の向上に寄与したい。 本年度は、「古俳書年表稿」の完成と公開に注力した。本年表稿は、古俳書を可能な限り網羅して編年体に配列し、解題を付した作品目録であり、古俳諧研究の基礎資料となるものである。これまでの研究で作成した礎稿をもとに収録書目の増補を進め、解題の高精度化を図った。国文学研究資料館、東京都立中央図書館、奈良大学図書館、西尾市岩瀬文庫、芭蕉翁記念館、陽明文庫等における原本調査と、全国の所蔵先からの写真収集、関連文献の調査によって情報を整理検討し、859点の書目について記述した。完成原稿は近日中に刊行予定である。 また、上記調査の過程で、初期伊賀俳壇で活躍した貞門俳人・高梨野也の文事の検討を行い、それを踏まえて芭蕉句文「うに掘る岡」について注釈的考察を加え、新たな解釈を提案した(河村瑛子「高梨野也小考―芭蕉句文「うに掘る岡」をめぐって」『日本文学研究ジャーナル』8号、2018年12月)。 さらに、浩瀚な内容を備える『俳諧類船集』注釈に際しての資料整備の一貫として、日常的記述に富む黒川道祐の紀行作品群に着目した。作品と諸本の一覧を作成した上で、研究会において月1回のペースで読解に取り組むこととし、本年度は、従来その存在が知られなかった谷村文庫蔵「西北紀行」の翻刻・注釈を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画の目的の一つであり、今後の古俳諧研究の基礎をなす「古俳書年表稿」の原稿が完成し、公開の目処が立ったことが主な理由である。また、それに次ぐ理由として、上記の研究作業の過程で、文学史上重要な芭蕉の作品・伝記について新見を付け加え得たこと、今年度より開始した陽明文庫の資料調査を通じて、従来不十分であった公家の俳事や初期の俳諧式目運用の実態を考察できたことなどが挙げられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、「古俳書年表稿」にもとづいて古俳諧作品の読解翻刻を進め、全文データの集積と公開に力を注ぐ。これまでの研究を通じて、他出との異同を考慮すべき作品があること、難語が少なからず含まれることなど、作業上の課題を認識した。翻刻作業は、作品の注釈的吟味、諸伝本・他作品との比較検討と同時並行で遂行する必要がある。 また、本年度の研究において、黒川道祐の紀行文が『俳諧類船集』注釈のみならず、他の文学作品の理解にも有用であること、資料の性質上、校合・注釈による本文校訂が肝要であることを確認した。本年度に引き続き、注釈的考察を行う。 以上のような基礎研究を踏まえ、『類船集』注釈と古典研究を推し進める。
|
Causes of Carryover |
物品費に充てる計画であったが、進捗状況の変化により今年度の購入を見送った。次年度の助成金とあわせて物品費として使用する予定である。
|
Research Products
(1 results)