2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K12290
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
松田 聡 岡山大学, 教育学研究科, 准教授 (60806412)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 万葉集巻六の構想 / 天平五年 / 坂上郎女の月の歌 / 家持歌日記 / 家持歌と防人歌の混在 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は万葉集末四巻(巻17~20)の日記文学的側面を考究しようとするものであり、その解明の糸口として「散文」的な性格を持つ題詞・左注や歌の配列に着目しつつ研究を進めているが、平成30年度はまず「万葉集巻六と家持歌日記」ということについて考究し、口頭発表を行った(「美夫君志会万葉ゼミナール」2018年9月8日)。巻六には末四巻と共通する要素が数多く指摘できるが、それは天皇讃美に関わるような晴れの歌だけではなく、官人達の私的な歌にまで及んでいる。端的に言って、それらの歌は末四巻と共通の基盤に立つ和歌観によって選択されたものと見てよいだろう。末四巻(特に特に巻十九巻末部から巻二十にかけて)には家持の目を通して見た「歴史」が語られるという側面が見受けられるが、巻六の場合も、官人(おそらくは家持)の目を通した「歴史」が語られているのではないだろうか。私的な抒情を詠む歌々も、聖武朝の文化や時代思潮と深く関わっており、その意味において「歴史」と無縁ではない。巻六は、そのような文化史的な側面をも含み込みつつ、官人の視点から「聖武朝」のありようを語っているのだと考える。これは末四巻が「家持の見た〈歴史〉」を語っているのとパラレルな関係にあると言える。 次に、巻六の問題との関連で「坂上郎女の月の歌―万葉集巻六の「天平五年」―」というテーマで研究発表を行った(「岡山大学教育学部国語研究会」2018年11月10日)。時間軸に従って配列された天平五年の歌が、家持に関連する事柄に収斂していく様を見極めようとしたものであるが、これも末四巻における日記的手法と同質のものを見いだすべく扱ったものである。 なお、巻二十における防人歌と家持歌の混在という問題についても研究を進めた。これについては既に令和元年度の発表資料作成に取りかかっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初、万葉集末四巻(巻十七~二十)の分析のみを行う予定であったが、末四巻の表現の基盤となっている巻十六以前についても分析する必要があることから、万葉集巻六についてまずは考察することとした。従来、末四巻の側から巻六を振り返るという視点は全く欠如しており、この点について考察しなければ、末四巻の万葉集における位置づけを十分に明らかにできないと考えたからである。このため、当初予定していた研究にやや遅れを生じることとなった。研究の進捗状況としてはそれほど遅れているわけではないが、論文として公表に至ったものがないということを考慮し、「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、まず前年度に口頭発表した研究を論文化する。その上で、今年度中に以下のことを予定している。内容については計画書に書いたものと同一である。 ①万葉集巻二十における防人歌と家持歌の混在という問題について口頭発表を行い、論文化する。口頭発表は早稲田大学国文学会秋季大会(11月30日)の予定。 ②万葉集末四巻における散文的な題詞・左注について総括的な考察を行い、口頭発表を行う。口頭発表は美夫君志会例会(12月8日)の予定。 なお、来年度以降は②を論文化した上で、「家持における〈幻視〉の問題」というテーマで研究を予定している。これについても内容は計画書と同一である。最終的に本研究で3~4本程度の論文を公表することを目指している。
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Causes of Carryover |
旅費・物品費に端数があったため、次年度使用額が若干生じた。次年度以降に旅費・物品費等で使用する予定である。
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Research Products
(2 results)