2019 Fiscal Year Research-status Report
Basic study on the literary matters of Kimura Mokurou
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18K12292
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
三宅 宏幸 愛知県立大学, 日本文化学部, 准教授 (90636086)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 木村黙老 / 蔵書目録 / 曲亭馬琴 / 多和文庫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、讃岐高松藩家老の木村黙老について、彼の文事の実態を探る研究基礎を構築するものである。今年度は、昨年度に続き、黙老の文事の核となる彼の蔵書についての研究を行い、またそこから派生する黙老の馬琴小説に対する批評や、他にも彼が描く絵画について調査を行った。 黙老の蔵書については前年度にも報告したように、「一棟の倉は蔵書で詰」るほどの蔵書を有した逸話が残されており、報告者はそれまで知られていた黙老の蔵書目録の他に、香川県さぬき市の多和文庫に蔵される『高松家老臣木村亘所蔵書籍目録残欠』を発見した。この目録には約千点を越える書名が記されていた。昨年度は、蔵書目録の翻刻を公刊したが、今年度はさらに、蔵書目録の特徴や資料がもつ文学的意義について考察し、それを論文「木村黙老の蔵書目録攷」(『近世文藝』第110号、2019年7月)と題して公刊した。 さらに、黙老の画業についても平行して考察を行っている。例えば、香川県立ミュージアムには「アイヌ図」と題された肉筆絵が所蔵されており、これはその署名から、おそらく近藤重蔵から借りた資料を写したものと考えられる。この資料からは、黙老が近藤重蔵と文化的交流を持っていたことに加え、黙老が画も行った文化人であることが判明する。さらに、香川県立ミュージアムには「牡丹孔雀図」「龍図」などが残されている。これらを含め、鎌田共済会郷土博物館に所蔵される絵画や報告者所蔵の肉筆絵についても、その性質などを調査した。 なお、これまでの報告者の研究成果は、2020年3月から開催された香川県立ミュージアムの常設展「高松藩家老・木村黙老とその時代」の参考文献となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
報告者が論文「木村黙老の蔵書目録攷」でその意義を紹介した多和文庫所蔵『高松家老臣木村亘所蔵書籍目録残欠』は、黙老の蔵書実態を伝えることに加え、旧蔵書探索のツールとなりうる。報告者はこれまで、散逸したと言われる黙老の旧蔵書について、その蔵書目録を参考にしながら探索を続けてきた。香川県の諸機関・文庫等に所蔵されているものや、大阪府立中之島図書館にも『後の為の記』や『塩尻』などの旧蔵書が所蔵されている。その旧蔵書からは、誰からその書籍を引き継いだか、あるいは誰に貸借したかなども判明することがある。報告者は本研究で黙老の文化的交流についても考察を行っており、その点から見ても、旧蔵書の探索は重要であり、着実に進展している。 また旧蔵書の情報をふまえ、黙老の著作や小説批評などへの調査・分析も行っている。黙老の随筆『聞くまゝの記』『続聞くまゝの記』や『龍集説考』、馬琴が執筆した小説の批評など、黙老がどのような書物の知識を元にしたかも、論文で具体例を示した。 以上のように、報告者はこれまでの成果を元に、発展させる形で研究を行っている。したがって、研究はおおむね順調に進展している。 ただ一方で、旧蔵書の探索については、各機関に実際に赴いて資料を一点一点調査する必要がある。2019年の夏期休暇中にある程度の調査は行えたが、2020年に入ってからは新型コロナウィルス感染症拡大への対応から、十分な調査ができなかった点は否めない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はテーマを二点に分けて研究を続行する。まず一つ目に、黙老の旧蔵書の探索を続けること、二つ目に黙老の随筆や批評・考証についての典拠や知識源を検証すること、その成立や意義についての考察である。 これまでにも行ってきたことだが、黙老の旧蔵書には蔵書印が押されていない場合もあるものの、表紙の右肩に番号が書かれた紙が貼られており、その番号と書名が黙老の蔵書目録と一致すれば、黙老の旧蔵書と判断できる。鎌田共済会郷土博物館所蔵『消暑漫筆』や多和文庫所蔵『耽奇図説』、中之島図書館所蔵『銅柱余録』も黙老旧蔵本と考えてよい。2019年内に発見した中之島図書館所蔵『銅柱余録』には馬琴の識語もあり、黙老と馬琴の交流も見出せる。こういった資料の検証を続けることで、黙老の交流関係について、さらに考察を深める。 また、黙老の蔵書目録や旧蔵書をふまえ、黙老の考証随筆や小説批評など、彼の著作との関係について調査する。黙老の随筆『聞くままの記』『続聞くままの記』は大部のものであり、いまだ十分に検証は行われていない。黙老の旧蔵書を調査することで、その知識源が判明すると思われる。加えて、その知識源は黙老の小説に対する批評についても応用可能であろう。黙老は馬琴の『南総里見八犬伝』だけでなく、中国小説の『水滸伝』『平妖伝』や『後西遊記』などの批評も行っている。これらの批評についても、馬琴研究側からの検証が見られるものの、黙老の知識源との関係については検証が進んでいない。このことも並行して検証していく。
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Causes of Carryover |
今年度は夏期休暇期間中にいくつかの機関で調査し、黙老の旧蔵書の探索を行ってきた。しかしながら、集中して調査旅行を行う予定であった2月~3月にかけて、1月頃から問題となった新型コロナウィルス感染症拡大防止への対応から、国や大学から調査の自粛要請が出たことに加え、訪れる予定であった図書館や文庫、美術館に至るまで臨時休館となったため、調査を行うことができなかった。したがって、調査旅費の分で次年度使用額が生じた。 今年度に行えなかった調査については、非常事態宣言などの発令等を注視しながら、次年度中に改めて行う予定である。具体的には、香川県の各機関(多和文庫、鎌田共済会郷土博物館、香川県立ミュージアム、香川県立図書館など)や、大阪府立中之島図書館、天理大学附属天理図書館、神宮文庫、国文学研究資料館、国会図書館などに赴く予定を立てている。そして、各機関で調査した資料の複写も行うため、主に調査旅費と複写代金等に使用する予定である。
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Research Products
(2 results)