2018 Fiscal Year Research-status Report
近代日本における「少年小説」と、青少年文化及び国語教育との接続についての研究
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18K12299
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Research Institution | Tokai Gakuen University |
Principal Investigator |
大橋 崇行 東海学園大学, 人文学部, 准教授 (00708597)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 少年小説 / 児童文学 / 近代文学 / 少女小説 / 西條八十 / 野村胡堂 / 書誌学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究「近代日本における「少年小説」と、青少年文化及び国語教育との接続についての研究」において、2018年度は以下の2点を進めてきた。 第一に、「少年小説」の各公共図書館等における所蔵状況、保存状況の調査である。静岡大学が所蔵する明治期貸本屋資料の他、国立国会図書館、国際子ども図書館、東京都立多摩図書館といった国内での調査に加え、国立台湾図書館、韓国国立中央図書館で日本統治下にあった時期の資料、メリーランド大学のゴードン・W・プランゲ文庫に所蔵されている、GHQ統制下における資料について調査を行った。特に、国立台湾図書館のみが所蔵する台湾総督府所蔵の児童資料に関する目録の入手や、ゴードン・W・プランゲ文庫が所蔵する資料のうち、国立国会図書館のNDL―OPACでは探すことができない資料の書誌調査において大きな成果があった。 第二に、本研究で対象となるテクストを公に周知し、本研究を社会に還元することである。この点については、本研究の開始前から進めていた『少年少女奇想ミステリ王国 西條八十集』(戎光祥出版、2018年)の刊行を行い、現在、2019年度に同シリーズの第2冊として『野村胡堂集』の準備を進めている。 この他、研究論文「少女たちの冒険と探偵 西條八十「魔境の二少女」」(『JunCture 超域的日本文化研究』第10集、2019年4年)を執筆・公刊し、日本近代文学会秋季大会での口頭発表「文豪・森鴎外、電話に出ない! 「文豪」言説における作家の消費と「文学の俗性」」(2018年10月27日)、広島大学で実施した講演「冒険し、戦うヒロインの生成と展開」(2019年3月29日)においても本研究の成果が含まれている。 以上のように2018年度においては、「少年小説」に関する資料の調査・収集を進めるとともに、その成果を周知し、公に還元することについても、順調に研究が進捗している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の計画段階においては、国内において「少年小説」に関する資料の保存が進んでいないため、残存していない資料が数多く見られることを問題視していた。そこで、本研究では調査・収集の対象をアジア圏やアメリカをはじめとした海外の図書館等にまで広げたことで、日本国内では残っていない資料についても、調査・研究を行うことが可能となることが明らかとなった。したがってこの点については、2019年度以降も引き続き調査を進めていきたい。また、特に静岡大学が所蔵する明治期の貸本屋資料については、この時期の少年文化だけでなく、貸本として流通していた資料とそれにまつわるより広範な書物文化に接続させ、研究を進めることができる見通しを立てることができた。 また、研究対象としている資料を公にし、論文の公刊や研究発表以外にも、さまざまな形で社会に還元していくという研究目標については、2019年度にも1点を公刊することが決まっている。この他にも、研究計画にさらに新たに加える形で、資料を公にする方向で出版社と調整を進めることができている。 この他、3年目に予定していた国語教育と「少年小説」との接続について、2年前倒しする形で日本近代文学会の内容に含めて、口頭発表を行うことができた。この成果については2019年度に論文化する。同時に、講談と少年小説との関わり、また特に「少年講談」と呼ばれたジャンルが明治期から大正期にかけての国語教育、道徳教育と関連していることについて、2018年度の調査で仮説段階まで進めることができている。したがってこの領域については2019年度にさらに調査を進め、より明確な事実関係を確認していくことで、実態を明らかにしていきたい。 以上のように、本研究は研究計画を前倒しする形で、順調に進めることができている。したがって2019年度以降においても、2018年度と同様に本研究を実施していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度における研究の進捗、および成果を受け、本研究は調査・収集の調査対象となる図書館等をより広範に設定するとともに、国際学会での発表を含め、研究成果をより広く公にしていくことをめざす。 まず、資料の調査・収集に関しては、2018年度までの研究で、国内では散逸したとされている資料でも、図書館等においてまだ目録化されていない資料や海外の図書館で、まだ多くの所蔵を発掘できることが明らかとなった。そこで2019年度は、これまでの調査先に加えて、2019年度はケンブリッジ大学図書館の日本語コレクションのうち、特にまだデジタル公開が行われていない明治期の書籍について調査を実施する。また、東京都港区の三康図書館において調査を行い、明治期から昭和期にかけて博文館から刊行されていた資料について、まだ未整理の状態であるものも含めた調査を行う。これらの研究を通じて、「少年小説」に関する資料の所蔵状況、保存状況について、現状をより的確に把握することを目指す。 また、2019年度においては、研究の成果をより多く公にし、周知していくことで、社会に還元していくことを推進する。7月にオーストラリアのメルボルンで開催されるJSAA(Japanese Studies Association of Australia、豪州日本研究学会)で、久米依子氏(日本大学文理学部教授)、山中智省氏(目白大学人間学部講師)の協力を得て、シンポジウム形式のパネル発表を行う。この他、2018年度に実施した口頭発表の論文化を行うとともに、2018年度に明らかになった「少年講談」と「少年小説」や国語教育、道徳教育との接続の問題についても、研究論文として公刊していきたい。 この他、2018年度で終了予定の静岡大学所蔵の貸本屋資料について、論文集、あるいは翻刻の形で公にできるよう、2019年度内に方向性を決定する予定である。
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Research Products
(4 results)