2018 Fiscal Year Research-status Report
王国維と清末雑誌『教育世界』:文学活動およびその周辺
Project/Area Number |
18K12308
|
Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
小島 明子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 基幹研究院研究員 (20793847)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 王国維 / 『教育世界』 / 『教育叢書』 / 中国清末 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、従来不振であった清末文学研究の進展や、多様な側面から成立する過渡期中国の文学・文化、異文化受容に対する正しい理解の普及を目指す。そのため、その一例として中国清末~民国初頭の学者、王国維(1877~1927年)と彼が青年期に関与した雑誌『教育世界』(1901年~)を研究対象とし調査する。 具体的な内容としては、主に、1、雑誌『教育世界』とその周辺について 2、王国維と主に文学・文学論を中心とした業績について の二テーマを扱う。特に、王国維の青年期については不明な部分が多いことから、『教育世界』を彼の経歴や業績について探る手掛かりとする。そして、彼をとりまく周辺環境や思想形成の土台等を踏まえた上で、『教育世界』に掲載された文学関連のものを中心に、青年期の業績を精読し、多方面から再検討する。 以上の大まかな枠組みの下、1年目には、主に青年期王国維の教育世界社での業績を整理の上、翻訳家としての立場や文学への影響について分析した。そして、中国文化学会大会において口頭発表を行い、この一部を国際的基盤をもつ日本比較文化学会の学会誌に論文として掲載した。 王国維は当時より哲学研究者として自他ともに認めていたようだが、実際には翻訳家としての役割の方が強かった。ただし、彼が日本語学習者でもあったことはこれと区別されなければならない。その詞に頻出し、キーワードとされてきた「人間」の語に関しては、従来国際的な争点の一つとなっていた。一部では日本語の影響が指摘され、翻訳の経験によるものとされてきたが、これについて再検討し、異文化・言語の受容過程を明らかにした。王著には日本資料等の換骨奪胎が多く含まれることから、影響関係と独自性については調査の余地がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は1年目に入手した『教育世界』のデータを元に当雑誌の目録を作成し、2年目に報告書により公表する予定をしていたが、この資料は中国各地に点在しており、中国国家図書館からの取り寄せに時間を要することから、『教育世界』資料の入手とこれに基づく目録の作成については最終年度に延期し、2年目内にデータを入手することを当面の努力目標とすることにした。よって、この意味では遅れたことになるが、一方で、『教育世界』目録の作成以外の研究、すなわち王国維の業績等に関する研究を前倒しして行うことになったため、順番は前後したものの、結果的に全体的な進捗度合はほぼ予想通りである。 なお、1年目には、青年期王国維の『教育世界』社での業績と翻訳家としての立場、文学への影響について、中国文化学会にて口頭発表を行い、この一部を日本比較文化学会にて論文として掲載するため、調査資料代、学会費および学会発表にかかる交通費、論文掲載にかかる費用として経費を用いた。よって、計画の変更は生じたものの、当初予定していた額とほぼ同じ額を使用することになった。
|
Strategy for Future Research Activity |
まず、『教育世界』については、国内ではその一部しか所蔵がなく、大部分が再編された『教育叢書』初~七集の形で存在するが、これらは『教育世界』の原型を完全にはとどめていない。そこで、欠落部分や日本では見られない部分に関しては、中国蔵本を参考に、号(巻)順に戻し、原型を再現するという作業を行う。そこで、中国蔵本のうち未入手部分については、中国国家図書館よりデータを入手する。さらに出典が不明な部分に関しては日本資料等と照らし合わせ、調査の上、目録を作成する。 また、2年目には、①王が『教育世界』に関与した前後の経歴を見直したもの(前年度に中国文化学会で発表し、論文として公表していない部分を土台としたもの)、②『教育世界』翻訳記事の価値を検証し、王国維との関係について論じたもの、③文学活動に関するもの、を査読付き学会誌に投稿する予定である。なお、②に関しては2019年5月に開催される日本比較文化学会国際会議において審査を経、許可を得たため、口頭発表の予定をしている。 3年目には新たに王国維の周辺事情として『教育世界』に関与した日本人に着目する。また、王国維の業績を精読するとともに、文学史での評価を中心に後世における記述に着眼し、客観的に見直す。 4年目にはそれまで収集した『教育世界』記事の調査結果を目録にまとめ、報告書として公表する予定である。また、本研究終了後には書籍化を検討しているため、その準備にかかる。 期間内は通じて、王国維や清末中国文化に関連する先行研究を幅広く入手し、内容の充実をはかり、随時小テーマについて学会で口頭発表の上、学会誌に投稿する。
|
Causes of Carryover |
当初は1年目に入手した『教育世界』のデータを元に当雑誌の目録を作成し、2年目に報告書にするための見積もりを提出していた。しかし、この資料は中国各地に点在しており、中国国家図書館からの取り寄せに時間を要することから、『教育世界』資料の入手とこれに基づく目録の作成については延期し、本来2年目以降に予定していた小テーマを前倒しして行ったため、差額が生じた。 よって、『教育世界』データは2年目以降に入手する予定である。また、2年目にはこれと併せて、①『教育世界』に関与した前後の経歴を見直したもの、②『教育世界』翻訳記事の一部について価値を検証し王国維との関係について分析したもの、③文学活動に関するもの、を研究・発表する予定である。3年目には、王国維の周辺事情として『教育世界』に関与した日本人等に着目するほか、王の業績を精読したり、文学史を中心に後世における王国維への評価を客観的に見直すことを行う。4年目にはそれまで請求した『教育世界』資料をもとに、出典の調査結果を含めた目録を作成し、報告書としてまとめ、公表する予定である。そして、本研究を書籍化するにあたっての準備にかかる。 このため、『教育世界』資料のほか、王国維や清末を中心とする中国分野や隣接分野に関連する先行研究を幅広く入手し、最新の情報をふまえ、内容の充実をはかるとともに、随時小テーマについて成果を発表するべく、経費を用いる。
|
Remarks |
2018年度に2019年内の刊行が決定していたその他の業績は以下の通り。 ・萩原正樹・松尾肇子・池田智幸監訳『宋代文学伝播探原』(仮題)朋友書店、2019年12月、共訳、「緒論」部分を担当。
|