2021 Fiscal Year Annual Research Report
Narrative Techniques in Aldous Huxley's Fiction and Speculative Essays
Project/Area Number |
18K12317
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
猪熊 恵子 東京医科歯科大学, 教養部, 准教授 (00508369)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 小説 / 語り / 誕生 / 個人 |
Outline of Annual Research Achievements |
過去三年間の研究期間では、「小説」ジャンルそのものの成り立ちや特異性を、「叙事詩」、「映画」などの他ジャンルとの対照においてとらえ直して来た。この成果をもとに、最終年度となる2021年度にはオルダス・ハクスリーの作品分析をおこない、論文としてまとめた。 具体的な内容としては、ハクスリー作品が伝統的に「小説」としての完成度が低いものとして批判されてきた経緯(単なるエッセイや時代風刺の書き物の延長線上にあるものとして軽視されてきたこと)そのものを考察の対象とした。まず、そもそも「小説」とは何か、どのようなファクターをもって「優れた小説」とされうるのかという大きなテーマについて、ハクスリー作品の受容史に照らして検討した。合わせてこれらの考察と「小説」ジャンル全体に関する方法論や過去の議論とを比較した。 結果として、ハクスリーの「小説家」としての評価の低さや、彼の作品の「小説性」への疑義そのものが、批評家が当然のものとして内面化している価値観――小説とは何よりも「社会のなかでの個人のありようを描写する書き物」である――の反映であることを提示した。あわせて、「小説とは社会のなかでの個人のありようを描写するもの」という一見して明白かつ簡便な定義は、実のところ「社会」「個人」という枠組みを哲学的に追求し始めるや、きわめてあいまいで規定困難な概念となりうることを示し、その省察をもってハクスリー作品を改めて振り返ることの意義に光を当てた。 これらの議論を展開した最終年度の論文では、ハクスリーの代表作『すばらしい新世界』が、単にクローン技術や試験管ベイビー等の科学的テーマを取り上げた風刺作にとどまるものではなく、「個人」の境界線と、それを策定しようとする「小説」ジャンルそのものの限界をえぐるような作品であることを、論証することができたと考える。
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Research Products
(1 results)