2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K12320
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
畑中 杏美 弘前大学, 人文社会科学部, 講師 (60791580)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | Muriel Spark / ミュリエル・スパーク / 老齢 / 老い / カトリック |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実施計画に沿った研究ができない部分もあったが、研究対象とする作品については、読解・考察・論文執筆をすすめることができた。作品読解や論文執筆については、おおむね前年同様行っているものの、2020年3月にイギリスに赴いて行う予定であった調査を行うことができなかった。新型ウイルスの流行という事態を鑑み、出張費にあてる予定だった予算を書籍購入にあてるなどした。 しかしながら、とくに本年は、Muriel Sparkの作品についての研究について実績があった。Sparkの代表作のひとつであるMemento Moriだけでなく、そのほかの作品についても読み解くことができた。Sparkの作品のなかでも、老齢の人びとばかりを描いた作品のみを扱っていた際には、普遍的な価値観に身をゆだねることができる者が、そうでない者とくらべて優位に置かれているという仮説をたてた。だが、The Bachelorsなど、老齢には達していない者たちが宗教的な逡巡をする様子が描かれている作品においては、むしろ、周縁に置かれた者たちの言動が重要視されるべきであることがわかった。この気付きから、もう一度、Memento MoriやThe Prime of Miss Jean Brodieなど、Sparkの代表作を再読する必要があることもわかった。とくにMemento Moriについては、老年が悲惨なものとして提示されているわけではないものの、幸福で、元気いっぱいの老年をおくる者が登場しないということについても注意を払う必要があることがわかってきた。Virginia Woolfが提示しているかにみえたポジティヴな老いの形が、その後の作品で繰り返し描かれているとは言い切れない可能性が見えてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
20世紀の小説において、老いがどのように描き出されているのかを考察することができている。当初考えていたよりも、かなり多くの作家が老いをテーマとして読み解くことのできる作品を書いていることがわかってきた。また、老いが笑いとともに描かれる場合は、笑いの対象と少し距離を置いた冷静な視点から老いが観察されることが多い。ともすれば不謹慎ともいえるような冷笑的なユーモアすら用いられることすらある。このことについては、20世紀後半に書かれた作品において特に顕著なのであるが、まだ論考執筆には至っていない。第二次世界大戦以降に出版された作品については、さらに研究を続け、論文執筆につなげたい。 一方で、図版等の資料がなかなか思うように集まらないことや、文学作品を逐次刊行物等の資料との関連において論じることについては難しさを感じてもいる。本研究はイギリス小説が主な研究対象であるので、図版等の資料は参考にしつつ、作品に主軸を置きつつ進めていこうと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年に引き続き、老いと笑いをテーマに、イギリス小説についての研究を進め、これまでの研究成果を形にして残したい。Virginia WoolfやMuriel Sparkなど、女性作家が描く老いや老齢の感覚だけでなく、同時代のほかの作家、とくに男性作家が描く老齢についても、令和二年度は力を注いでいきたい。そうすることによって、20世紀のイギリス小説における老いと笑いという本研究の主題についての考察をさらに深めていく。 状況が許せば、英国に赴いての資料調査研究も行いたいが、これは現時点ではまだ見通しが立たない。しかもこれは自助努力で乗り越えることのできない課題であるため、研究の方向性について多少の見直しが必要とされる。 そもそも、本研究のテーマである「表象」の語義をひろく考えれば、必ずしもイラストレーションや、写真等の図版だけでなく、文学作品において描出されるイメージもまた表象といえよう。そのため、長距離の移動を必要としない範囲での逐次刊行物等の調査は引き続き行っていくが、今年度はとくに、文学作品を丹念に読み解き、そこに描き出される老い・笑いのイメージについて考察することに主軸をおきたい。 以上のような方針で研究を進めていくが、長距離の移動をともなう調査研究が可能な状況になった場合は、また柔軟に軌道修正を行っていこうと考えている。
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Causes of Carryover |
2020年3月に予定していた現地調査(英国)が実施できなかったため。また、新型ウイルス流行を鑑み、国内の学会・研究会等もおおむね中止となった。そのため、旅費として見込んでいた予算が大幅に余ることとなった。物品・書籍等の購入にあてようと思ったが、必要な書籍等を購入してもなお予定していたよりも必要な金額が少なかったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額については、令和二年度における物品・書籍購入の費用にあてたいと考えている。
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Research Products
(1 results)