2018 Fiscal Year Research-status Report
「超越」と「経験」の統合による新たなシェリー像の構築
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18K12325
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Research Institution | Shirayuri College |
Principal Investigator |
米田 ローレンス正和 白百合女子大学, 文学部, 講師 (40748266)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | パーシー・シェリー(Percy Shelley) / ロマン主義(Romanticism) / 歴史化(historicisation) / 身体性(physicality) |
Outline of Annual Research Achievements |
交付申請の際に提示した研究計画の通り、イギリス・ロマン主義の男性詩人、パーシー・シェリー(1792-1822)に関する研究を行った。約200年間にも及ぶ批評的営為の末、「超越主義者(transcendentalist)」と「経験主義者(empiricist)」という名の、互いに矛盾する二つのシェリー像が構築された原因を解明することが、本研究の目的であった。 母国イングランドで執筆をしていた頃、シェリーの外界に広がっていたのは、教会と政府による専制支配が続く非啓蒙化社会であった。それゆえ、脱キリスト教化されたユートピア世界をテーマとする詩を出版し、上流階級および中流階級に属する人々の啓蒙を試みたのである。実に、後世の批評家から「超越主義者」(あるいは、「理想主義者(idealist)」)と呼ばれる所以である。 しかし、1818年におけるイタリアへの移住を機に、シェリーの外界認識は一変する。地中海地域における温暖な気候、風光明媚な自然が彼の五感を活性化し、外界は「非啓蒙化社会」から文字通りの「地上の楽園(the Earthly Paradise)」へと変貌した。以後、シェリーの詩においては、「超越」よりも「経験」の方が重要なテーマとなってゆく。 本研究により、シェリーの「身体性(physicality)」が明らかとなった。まさに、この「身体性」が長らく捨象されてきたからこそ、超越主義者と経験主義者という「矛盾」が生じてしまった。本来、両者の関係とは、論理上の矛盾ではなく、身体上の「変化」として解釈するのが正しいのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本助成金によって購入した研究資料から有用なデータが豊富に得られ、シェリーの「身体性」という(研究計画の段階では想定していなかった)新たな着眼点を見出したからである。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度における研究成果を踏まえ、「身体性」という観点からシェリーの全著作を分析する。本助成金の活用により新たな研究資料も随時入手してゆきたい。また、当該年度における研究成果は、次年度中に学術誌論文として出版、あるいは学術会議にて発表したいと考えている。
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Causes of Carryover |
研究過程において想定以上の物品費(主に、研究資料購入のため)が必要となり、前倒し支払請求を行った結果、残余分が次年度使用額となった。
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