2018 Fiscal Year Research-status Report
Counter-Irishness in the Literature of the Irish Free State (1922-37): Yeats, Joyce, O'Connor, and F. Stuart
Project/Area Number |
18K12327
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
諏訪 友亮 東京農業大学, 国際食料情報学部, 助教 (30633408)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | W・B・イェイツ / ジェイムズ・ジョイス / フランク・オコナー / フランシス・スチュワート / 対抗的国民性 / ナショナリズム / アイルランド自由国 |
Outline of Annual Research Achievements |
アイルランドでは20世紀初め、独立運動の担い手がイギリスからの移民で地主階級であった少数派プロテスタントのイギリス系アイルランド人(アングロ・アイリッシュ)から多数派カトリックの知識人層へ移っており、アイルランド自由国(1922-37)の運営は、主に彼らカトリック知識人層によって行われた。その政策を支える価値観の一つが、カトリック的な道徳律であり、顕著に表れるのが1923年に発議された離婚を禁止する法案、1920年代後半に施行された性的な映画や出版物を検閲する法律であった。また、もう一つの主要な価値観が、19世紀まで人口の多くが話していたゲール語を復興する熱意である。自由国政界の中心人物らが、19世紀末にゲール語の普及を目的に設立されたゲール語連盟(Gaelic League)の出身者であった事実からも明らかなように、義務教育を通じたゲール語の復興はアイルランド自由国の政策に組み込まれていった。ポストコロニアル批評家の一人であるエドワード・サイードはエッセイ“Yeats and Decolonizaiton” (1993) の中で、独立運動が植民地支配を跳ね返すのに有効であるものの、運動の理念が独立後も強固に保持されることで後々の国民観を縛ってしまう事態を指摘している。アイルランド自由国においても同様に、独立運動を支えたカトリック的・ゲール的な言説は、とりわけ自由な表現活動を求める作家たちにとって抑圧的に働くことになった。 上記に関連し、平成30年度は以下の研究を遂行した。1) これまで行ってきた研究の整理、特にアイルランド自由国の社会史、教育史、検閲制度の確認。2) W・B・イェイツの文学サークルによる検閲制度への抵抗 。3) 自由国期におけるイェイツ、ジョイス、フランク・オコナー、フランシス・スチュワートの著作書誌の作成。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で示した3点に沿って進捗状況を記載する。 1) 自由国の社会史においてはとりわけアングロ・アイリッシュの置かれた状況について調査を進めた。独立以前から少数派だった彼らの人口は、自由国成立後に激減し、国政において彼らの意思を代表する機会が失われつつあった。近年、マイノリティーとしてのアングロ・アイリッシュの立場を考察する研究が続々と発表されており、本研究が対象にする2人の作家、アングロ・アイリッシュのイェイツとスチュワートが過激に自由国の閉鎖性を批判した背景を理解するうえで大いに参考になる。また、教育史は主に初等教育におけるゲール語の必修化について、検閲制度は概説書のほかにイェイツ以外の作家、オコナーやショーン・オフェイロンらが自らの作品が発禁された事態に対して批判したエッセイなどを考察した。 2) イェイツは古くからの友人でアングロ・アイリッシュのジョージ・ラッセル、レノックス・ロビンソン、若い世代のF・R・ヒギンズ、フランク・オコナーらと連帯を組み、検閲への異議申し立てを行っていたことが分かっている。イェイツを孤立した個としてみるのではなく、当時のこうした緩やかな文学者の連帯のなかで、イェイツの国民観、芸術観を今後検討していきたい。 3) 2019年2月にダブリンのトリニティー・カレッジで2週間の資料調査を行い、絶版のため手に入りにくいオコナーとスチュワートの1920-30年代の著作を著作権の範囲内でコピーまたは写真撮影して収集した。エクセルファイルに彼らの書誌文献表をまとめている。 なお、12月には日本イェイツ協会の事務局長として、当該協会と国際イェイツ協会の合同による国際イェイツ研究大会を京都大学で開催し、欧米やアジアの各地域から集ったイェイツ研究者と本研究について意見交換を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
予定通り2019年度の研究計画書に基づいて研究を行っていく。改めて以下にその概略を提示する。 1)ジョイスが自由国成立と同時期に発表した大作『ユリシーズ』(1922)の中に予見的に代替的国民性が投影されたことを確認し、この小説を挿話ごとに検討していく。 2)権威主義論と自由論の代表的論考の整理をする。権威主義論は主にフロムやアドルノらフランクフルト学派の理論を、自由論はロック、ルソー、ミルたちを端緒とする自由主義の系譜を検討する。 3)青シャツ隊(Blue Shirts)といったアイルランドにおけるファシズム勢力と彼らの思想を文脈化する。併せてロバート・パクストン以降の英語圏ファシズム論において権威主義やアイルランドのファシズムがどのように考察されてきたのかを概観し相対化していく。 さらに、国際イェイツ協会で得たネットワークを活かし、海外研究者らと継続して本研究について意見の交換を行いたい。
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Causes of Carryover |
残額が生じた理由は2点である。1つは、書籍の大半を中古本、電子書籍で購入し、資料が割安で手に入ったため。2点目は、2019年度より実践女子大学に異動することが決定し当該大学で多くのデータベースが使用できることが判明したため、個人で契約するデータベースを抑制した。以上の2点によって、当初予定していたほど物品費がかからなかった。現在、8年前に購入したモバイルノートパソコンの動作が重く、出先でパソコンを使用できない状況が続いていることから、残った物品費をパソコンの購入に当てる予定である。
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