2019 Fiscal Year Research-status Report
Counter-Irishness in the Literature of the Irish Free State (1922-37): Yeats, Joyce, O'Connor, and F. Stuart
Project/Area Number |
18K12327
|
Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
諏訪 友亮 実践女子大学, 文学部, 講師 (30633408)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | ジェイムズ・ジョイス / ディアスポラ / 国民国家 / 対抗的国民性 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は本研究の中心を占める作家のうち、特にジェイムズ・ジョイスを検討し、彼の対抗的な国民観について調査を行った。 ジョイスは初期の『ダブリナーズ』において、カトリック的価値体系に囚われた人々をアイロニカルに、時に辛辣に描く一方で、それに代替する国民像といったものは積極的に提示していなかった。『ダブリナーズ』所収の「死者たち」に登場するゲイブリエルでさえ、そのジョイスに似たヨーロッパ中心的な世界観は、ゲール語連盟的な本質主義と対置されるものの、両者はともに疑義を呈されていた。後期作品『ユリシーズ』の主人公として登場するユダヤ人でカトリックに改宗したレオポルド・ブルームは、自らが示した国民の定義である「同じ場所に暮らす同じ人々」を越える存在である。オーストリア・ハンガリー帝国から移ってきたユダヤ移民の第2世代であるブルームは、自らの根無し草的立場をまったく憂いていない。血統的にはアイルランドと関わりがないブルームは、己をアイルランド人と定義しており、いわばアウトサイダーであると同時にインサイダーである。他方で、イングランド系とリトアニア系ユダヤ人が主だった20世紀初頭のダブリンのユダヤ人街の実態からブルームは大きく外れている。 こうしたことから、ジョイスは想像力を媒介に中間的なユダヤ人/アイルランド人を作り出すことで、インサイダーのみで構成される国民という概念に変更を迫っており、ユダヤとアイルランドという2つの過去を併せ持つ人物から、未来の読者が国民の概念を拡張する可能性を引き出せるように仕組んだと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
所属先が変わり、教育と研究の環境が大きく変化したことから、適応するための時間が必要だったものの、ある程度は研究する時間を確保でき、さらに予定していたダブリンでの現地調査を実施し、資料収集を行うことができた。 新型コロナ流行による大学や図書館の閉鎖は年度末であったため本年度の研究への影響は限定的であったが、来年度における本研究の総括の遅れが懸念される。
|
Strategy for Future Research Activity |
W・B・イェイツ、ジェイムズ・ジョイス、フランク・オコナー、フランシス・スチュワートがアイルランド自由国期(1922-1937年)に提出した対抗的国民性について、2年間で行ってきた研究と資料を改めて整理し、まとめる。新型コロナ流行が収束する見通しがたたないことから、アイルランドでの調査は想定せず、これまでの論点を整理し、それぞれの作家における国民像を比較検討していく。
|