2019 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ文学と視覚芸術の交差:20世紀中葉の文学と写真
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18K12329
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
宮澤 直美 京都産業大学, 外国語学部, 准教授 (50633286)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 写真 / ウラジーミル・ナボコフ / トルーマン・カポーティ / アメリカ文学 / 視覚芸術 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の一つ目の実績は、2019年2月の米国調査で得たウラジーミル・ナボコフ(Vladimir Nabokov)に関する資料分析を進め、ナボコフ作品と視覚芸術の関係性について論文にまとめたことだ。具体的には、ナボコフの『セバスチャン・ナイトの真実の生涯(The Real Life of Sebastian Knight)』(1941)を中心に、絵画と写真といった視覚芸術と文学とが、作品の中で互いに補完し合う様を検証した。同時に、『ナボコフの文学講義(Lectures on Literature)』を取り上げ、ナボコフがマルセル・プルーストの『失われた時を求めて』の主要テーマであるプリズムと過去の回復をどのように理解していたのか考察した上で、それらプルースト的テーマがナボコフ作品のなかで、いかに受け継がれ、また乗り越えられているのかを明らかにした。 二つ目の実績としては、視覚芸術と文学の連動性に着目してきたデリダ、リカルドゥー、メルロ・ポンティなどの議論を理解する作業を進め、上の論文執筆に役立てたことだ。 2019年夏にArizona Quarterlyに掲載されたトルーマン・カポーティの『冷血(In Cold Blood)』と写真に関する論文“Photography, Unconscious Optics, and Observation in Capote’s In Cold Blood”(Arizona Quarterly, vol. 75, no. 2, 2019, pp. 37-54)が、2020年David D. Anderson Award for Outstanding Essay in Midwestern Literary Studiesの最終選考にノミネートされたことも、研究を進める上での大きな励みとなった。The Society for the Study of Midwestern Literature (SSML)が、アメリカ中西部文学研究に多大な貢献をした研究論文を評する学術賞である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画では、ナボコフの小説『絶望(Despair)』を中心に1930年代のナボコフの作品を、視覚芸術と小説の関係性という観点から検証する予定であった。しかし、結果として、『絶望』以外の作品を分析し論文にまとめることに研究の焦点が移行し、『絶望』に関する研究を論文という形でまとめ上げるには至らなかった。米国調査で得られた資料が豊富であるため、その分析を通じて、新しい着想を得て他の作品に関する研究を進めるに至ったことが、軌道修正をした主な理由である。なお、当初の研究計画通り、デリダ、リカルドゥー、メルロ・ポンティなどの議論をナボコフとの関係で読み直す作業は順調に進めることができた。以上の理由から3を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
一つ目の計画は、デリダの『盲者の記憶』における絵画の起源についての論考とナボコフ『絶望』に関する分析を進め、論文にまとめることである。続いて二つ目の計画として、初の長編作品『メアリー(Mary)』を中心に、写真と移民の関係性を検証する予定である。本作品が写真と記憶をテーマとして扱う作品であることに着目し、写真の登場がモダニズム的な視線の構築と、その後のナボコフ作品の登場人物の唯我的なものの見方にどのように影響したのかを考察する。当時彼が作品を執筆していたベルリンのNew Photographyの動向や写真家たちの活動を調査し、作品を歴史文化的観点から理解する手助けとする。
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Causes of Carryover |
当初計画では、学会出張や資料調査のために旅費を執行する予定であったが、今年度は校務と重なることが多く、計画通りに出張することができなかった。また、論文執筆に取り組む過程で、当初一本の論文にまとめる予定であった内容を、二つに分けて執筆することにした。二つの異なったテーマを扱う論文として成立する内容にまで発展したためである。そのため、論文執筆と校正のために多くの時間を要する結果となったことも、出張可能な時間が減った理由である。以上の理由で、旅費の多くを繰り越すことになった。 2020年度は海外での調査研究を当初から予定しているが、この調査の際に、さらに訪れる必要がある資料館も見つかっている。繰り越した費用は、この調査のための旅費と、英文校正などの出版準備費用として執行する計画である。
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