2021 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ文学と視覚芸術の交差:20世紀中葉の文学と写真
Project/Area Number |
18K12329
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
宮澤 直美 京都産業大学, 外国語学部, 准教授 (50633286)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 写真論 / イメージ / ウラジーミル・ナボコフ / トルーマン・カポーティ |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の研究計画に沿って、以下の3点を中心に進めた。 1)すでに出版が決定していたナボコフの『絶望』(Despair)に関する論文“The Blindness of the Writer in Nabokov’s Despair”の出版準備作業を進めた。出版先のJournal of Modern Literature(米国 インディアナ大学)の編集者との校正作業を繰り返し、最終的に令和3年12月末に出版に至った。 2)フランスの社会学者・批評家ジャン・ボードリヤールの著作を網羅的に検証した。ハイパー・リアリティの概念についての理解を深めるとともに、イメージ、メディア論、写真論、アメリカに関する分析など、ボードリヤールの社会文化論を整理することで、文学テクストを新たな視点で読み直す視座を得ることができた。 3)J.D.サリンジャーの短編集Nine Stories、トルーマン・カポーティの1940年代の短編やニューヨークを舞台とした作品を中心に精読しながら、写真という視覚芸術と20世紀中葉のアメリカ文学作品の考察を進めた。上記のボードリヤール以外にも、ロラン・バルト(Roland Barthes, Camera Lucida: Reflections on Photography, trans. Richard Howard. New York: Hill and Wang, 2010)やスーザン・ソンダクの議論(Susan Sontag, On Photography. New York: Farrar, Straus and Giroux, 1977)を理論的支柱として作品分析を進めた。その結果としてカポーティと写真に関して、新たな論文の構想を見出すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍にあり、予定していた海外での資料調査をはじめ、国内の資料館での調査を進めることができなかった。しかし、この環境下に合わせて研究の方向性を修正し、別の資料を入手するなどして研究を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、写真という視覚芸術と20世紀中葉のアメリカ文学作品との関係を、当時の文化、思想などを踏まえながら分析するものである。本年度をこの研究課題の最終年度とすべく、以下のように研究を進める予定である。 1)昨年度から進めてきたトルーマン・カポーティについての分析をさらに進める。本年度中に執筆を開始し、最終的には国際雑誌掲載を目指す。昨年度整理したジャン・ボードリヤールらの分析を援用しながら、1940年代の短編を中心に、アメリカの消費社会におけるイメージ、メディア、写真と作品との関係を考察する。 2)1月に査読審査の結果が届き、国際雑誌出版に至らなかった論文、ウラジーミル・ナボコフの小説『メアリー(Mary)』と写真に関する論文の大幅な加筆、修正作業を行う。具体的な内容としては、ナボコフがベルリン時代に執筆した初期の短編、母やロシアの記憶に関する資料を分析し議論を深め、新しい論文として仕上げる計画である。
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Causes of Carryover |
当初計画では、国内外の資料館への資料調査のための旅費を執行する予定であった。しかし、長期化する新型コロナウィルス感染症の影響で、資料調査が実施できない状況となったことが次年度使用額が生じた主な理由である。加えて、海外から発送される書籍の到着遅延や、海外に投稿した論文の査読審査、校正作業にも通常よりも時間を要するなど、感染症の影響は多岐に及んだ。次年度はこうした影響を十分考慮に入れた上で、書籍やデータとして必要資料を入手し研究を進める計画である。
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