2018 Fiscal Year Research-status Report
Sleep and its variations in the works of Charles Dickens
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18K12335
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
渡部 智也 福岡大学, 人文学部, 准教授 (80612845)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ディケンズ / 眠り / 不眠 / 夢 |
Outline of Annual Research Achievements |
3年間の科研のプロジェクトにおいて、初年度(2018年度)は研究課題を遂行するための基盤を構築する年として位置づけ、その基盤の構築に力を注いだ。具体的には、眠りに関連する文学研究書のみならず最新の眠りや不眠に関する医学的な研究書、論文を収集し、それらの解読をおこなった。特に今年度はMichael GreaneyによってSleep and the Novelという研究書が出されたが、これは研究代表者が知る限り、文学作品における「眠り」というテーマを文学的観点から真っ直ぐに追求した初の本格的研究書であり、本研究プロジェクトを遂行する上でも大いに参考になった。 あわせて眠りや不眠を扱った文学作品を集め、それらに見られる眠りの描写の分析をおこなった。文学作品における眠りという意味では、特に近年出された大衆小説は眠りよりもむしろ不眠をテーマに扱ったものが多く見られることが分かり、眠りの問題が現代人の大きなテーマとなっているという事実とともに、作家としてごく初期の段階から「眠りのない状態」に強い関心を寄せていたディケンズの先見性を再確認することができた。 また、備品で購入したノートパソコンを活用して『ニコラス・ニクルビー』や『マーティン・チャズルウィット』といったディケンズの前中期の作品を眠りという観点から分析すると共に、彼の眠りの多様性を相対的に考察するため、上で述べた現代の作家の作品に見られる描写や、他の同時代の作家、例えばウィルキー・コリンズやエドガー・アラン・ポーの眠りの描写との比較をおこなった。 さらに旅費を使用した学会での情報収集においては、特に前期の『バーナビー・ラッジ』に関する全く新しい知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現時点では、当初の研究計画より少し遅れている。その要因は大きく分けて2つある。1つは、研究代表者が本研究課題を遂行するための研究体制を確立すべき2018年度の前半に立て続けに大きく体調を崩してしまったため、研究のリズムを上手く作る事ができなかったということがある。そのため、本来であれば年度の前半におこなっておきたかったいくつかの事柄が後半へと回されることとなった。もう1つは、当初想定されていた以上に眠りに関連する医学面からの先行研究が多く、それらの収集と読解に予想外の時間を取られたためである。以上2つの理由により、年度全体として見た場合に研究計画に少しの遅れが発生し、年度中に論文や発表の形で成果を公表することができなかった。しかしながら、年度の後半以降は順調に研究が進んでおり、2019年度の秋には口頭発表でその成果の一部を公表する予定である。また同様に『マーティン・チャズルウィット』の眠り(夢)について、「悪」という問題と絡めた研究書(共著)を2020年度に出版予定であり、次年度以降は順調に研究が進むものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
3年の研究計画の2年目にあたる2019年度においては、引き続きディケンズ作品に見られる眠りと不眠の描写の意味を、他の作家の作品及び医学書の描写とも照らし合わせる形で検討していく。特に『マーティン・チャズルウィット』や『荒涼館』を中心とするディケンズ中後期の作品に見られる眠りや不眠、夢の描写の分析を進めていき、年度の後半にはその成果の一部を発表する予定である。また特に『マーティン・チャズルウィット』に関しては、この作品に登場するジョーナス・チャズルウィットとモンタギュー・ティッグに関する夢の描写と「悪」との関連について、次年度以降に研究書(共著)として出版するための準備を進めていく。
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Causes of Carryover |
購入予定であった研究書の出版が当初より大幅に遅れたため、その分の金額を次年度に回すこととなった。その後当該研究書は出版が確認されたため、2019年度中に購入予定である。
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