2019 Fiscal Year Research-status Report
Sleep and its variations in the works of Charles Dickens
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18K12335
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
渡部 智也 福岡大学, 人文学部, 准教授 (80612845)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ディケンズ / 眠り / 不眠 / 夢 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度前半においては、ディケンズの中後期を代表とする作品である『荒涼館』の眠りを分析し、そこに見られる眠りの特徴と、彼と同時代を生きたアメリカの作家エドガー・アランポーの眠りの描写と比較する形で、その特異性を明確化した。具体的には、ディケンズは、単に文学的装置として特殊な眠りや夢の描写を積極的に行っていたのではなく、市井の人間が生きる上で当然の行為として行う眠りを描いている。一方、ポーは作品構成上不要と見なせば、一切眠りの描写を作品から排除しており、その点において、長編作家ディケンズと短編作家ポーの差が如実に表れていることを明らかにした。これはディケンズの関心の対象があくまで「人間」であり、その人間を描くことに注力した、ということを示す良い証左と言える。この研究成果については、令和元年10月に開催された、ディケンズ・フェロウシップ日本支部秋季総会で行われたシンポジウムにおいて、「謎解きは書評のあとで」と題する研究発表をおこない、公表した。ディケンズとポーについては、その関連性はたびたび指摘されてきたが、眠りの描写という観点で具体的に比較したものはほぼなく、その意味では今後のさらなる研究につながる意義のある研究だったと言える。 年度後半においては、同じく中期を代表する作品『マーティン・チャズルウィット』に登場する悪人ジョーナスとティッグの夢の描写を分析し、それらの描写が両者の類似性、さらに言えば分身性を強調する役割を持っていることを明らかにした。本研究内容については、令和2年度に出版予定のEvil and Its Variations in the Works of Charles Dickensと題する共著の研究書において公表する予定である。既に論文は提出しており、現在査読が行われている状況である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は『荒涼館』と『マーティン・チャズルウィット』という2つの中後期作品の眠りについて研究を進め、その成果の公表につなげることを計画していた。まず『荒涼館』の眠りに関しては、当初の予定通り、令和元年度の10月に行われたディケンズ・フェロウシップ日本支部手記総会において、ディケンズとポーの比較という観点からその研究成果を明らかにした。また、『マーティン・チャズルウィット』に関しては、研究書として出版するための論文をまとめる計画で、新型コロナウイルス感染症流行の影響に伴い、当初予定していたよりは若干英文校正に遅れが生じたが、論文執筆計画全体には大きな影響はなく、当初予定していた通り、年度末に提出することが出来た。以上のことから、全体として本研究課題は順調に遂行できていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の最終年度にあたる令和2年度においては、本研究課題を締めくくるために、ディケンズを代表する作品である『大いなる遺産』の眠りについて考察する。本作品は紳士になることを夢見る主人公ピップに莫大な遺産が転がり込むという物語であり、ディケンズ屈指の名作とも言われる作品である。本作は主人公が眠りにつく場面が頻繁に描かれる一方、主人公の「紳士になる夢」という比喩的な意味合いでdreamのような単語が用いられることも多いため、眠りに関連する言葉の用いられ方について、他作品以上に慎重な分析が求められる。引き続き、ディケンズや眠りに関連した先行研究にあたりつつ分析をおこない、論文等の形でその研究成果をまとめ上げることで、本研究課題を完了させる予定である。
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Causes of Carryover |
大きく分けて2つの理由が挙げられる。1つめの理由は、当初購入予定であった研究書が絶版となり、オンデマンドのみの再版となったことが挙げられる。このオンデマンド版の購入には数ヶ月の時間を要したため、年度内に執行することが出来なくなった。 もう1つの理由は、研究成果を報告する論文(研究書)締め切りの延期である。この論文集は英語論文集であるため、申請者は精度の高い英文校閲業者に、英文校正を依頼する計画を立てており、当初の予定では年度内に申請出来るはずだった。しかし、新型コロナウイルス感染症流行の影響を受けて、論文集の締め切りが約1ヶ月延期された。このことを受けて、論文の内容をよりよくするためにその時間を費やす事となり、その分、業者に英文校閲を依頼する時期が後ろ倒しとなったため、年度内の申請に間に合わなかった。以上が次年度使用額が生じた理由である。 これらのうち、前者の書籍については、近々手に入る予定である。また後者の英文校閲についても、既に作業は終わり、支払いの申請も行っている。そのため、時期は遅れるが、当初予定していた通りの形でその予算を使用する見込みである。
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Remarks |
ここに挙げたものは、研究発表を行った学会「ディケンズ・フェロウシップ日本支部秋季総会」の大会ページである。同ページでは大会の模様や、発表資料などが閲覧可能。
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