2018 Fiscal Year Research-status Report
両大戦と群集をめぐる言説-ドイツ語圏の文学と思想を例に
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18K12340
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
古矢 晋一 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (20782171)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 群集 / ホロコースト / フランクル / カネッティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、二つの世界大戦の中心であり、ナチズムという独裁体制を経験した20世紀前半のドイツ語圏を対象に、「群集・大衆」についての言説という観点から、特に第一次世界大戦、第二次世界大戦およびホロコーストをめぐる文学と思想の特徴について新たな光を当てることである。 2018年度は、口頭発表済みであったV・E・フランクルの『夜と霧』(1946年)についての原稿を日本ユダヤ学会『ユダヤ・イスラエル研究』32号に投稿した(査読を経て12月に公刊)。この論考では、『夜と霧』における「群集の精神病理学」という言葉に着目し、強制収容所という極限的な状況下での群集化された人々の心理について、特にフランクルのロゴセラピー思想との関連で考察した。 またエリアス・カネッティの『群集と権力』(1960年)における「インフレーションと群集」をめぐる問題についての口頭発表を日本独文学会秋季研究発表会(9月30日)で行う予定であったが、台風のために中止となり、代わりに日本独文学会のホームページ上でWeb発表を行った(11月)。この発表では、ホロコーストの原因をヴァイマル共和国初期のハイパーインフレーションの経験に求めるカネッティの議論の妥当性についてホロコースト研究史との関連で検討した。なお発表に先立ち、有志で開催したカネッティ研究会(9月8日、上智大学)でも内容の骨子について報告し、有益な議論を行うことができた。ユダヤ人迫害と大量虐殺の背景について、ドイツ国民の群集としての情動(インフレーションの際に被った「価値低下」の感情)という観点から解明を試みたカネッティの議論は、現代のヘイトスピーチなどの問題を考える上でも示唆的であり、上記の発表は改稿して論文化する予定である(投稿先は未定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた三つの研究の柱のうち、フランクルの『夜と霧』についての論文は2018年度中に公刊され、またカネッティの『群集と権力』についての口頭発表もWeb発表という形で公にするすることができた。ただし上記の論文と発表に集中し、また2019年4月の所属研究機関変更に伴う準備などのため、2018年度はドイツで資料調査を行う余裕がなかった。三つ目の研究対象であるドイツ青年運動に関する資料は既に部分的に収集し、2019年度以降にドイツで資料調査を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、第一次世界大戦に関連する文学およびドイツ青年運動の理論的著作における群集の問題に集中し、関連文献の収集と読解を中心に研究を進める。購入する資料は、引き続ぎ研究課題全般についての文献ならびにドイツ青年運動に関するものを予定している。海外での資料調査としてヘッセンの資料館などを訪問し、特にドイツ青年運動に関する文献調査を進める。 また2019年8月に札幌で開催される国際会議「アジアゲルマニスト会議」で、ドイツ青年運動の代表的な理論家であるグスタフ・ヴィネケンの著作における群集の問題について発表することが決まっている。教育改革とも結びついた20世紀初頭のドイツ青年運動は、大都市における近代的個人主義に抗して、青年たちの自然での集団体験を志向した大衆運動であった。この発表では、第一次世界大戦までのドイツ青年運動を理論面で代表する教育家ヴィネケンの言説を取り上げ、そこでの「教師」-「生徒」の関係が「指導者Fuehrer」-「群集Masse」モデルと重なっていることを確認し、群集論・大衆論の文脈からヴィネケンの言説の特異性と一貫性を明らかにする。
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Causes of Carryover |
ドイツでの資料調査を延期したため、次年度使用額が生じた。ドイツでの資料調査は2019年度に行う予定である。
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Research Products
(2 results)