2019 Fiscal Year Research-status Report
両大戦と群集をめぐる言説-ドイツ語圏の文学と思想を例に
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18K12340
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
古矢 晋一 立教大学, 文学部, 准教授 (20782171)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 群集・大衆 / 群集論 / 第一次世界大戦 / ドイツ青年運動 / ヴィネケン |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度はドイツ青年運動における群集という問題に集中し、ドイツ青年運動の代表的な理論家であるグスタフ・ヴィネケンの著作に集中的に取り組んだ。今年度の主な成果として、2019年8月に札幌で開催された国際会議「アジア・ゲルマニスト会議」(日本独文学会主催)において「ドイツ青年運動における群集のイメージ。グスタフ・ヴィネケンを例に」というドイツ語の口頭発表を行った。教育改革とも結びついた20世紀初頭のドイツ青年運動は、ワンダーフォーゲル運動に代表されるように、大都市における近代的個人主義に抗して、青年たちの自然での集団体験を志向した大衆運動・群集行動であったと言える。この発表では、主に第一次世界大戦までのドイツ青年運動を理論面で代表する教育家ヴィネケンの論文(「ドイツ青年運動」(1913)、「青年文化」(1914年)、「戦争と学校」(1915年)など)を取り上げ、「教師」-「生徒」の関係がしばしば「指導者Fuehrer」-「群集Masse」のモデルへとスライドしていることを確認した。ただしヴィネケンによれば、青年たちの集団は受動的であってはならず、指導者を手本にしながら、自律性と主体性を獲得しなければならないという。青年集団における「怠惰な群集本能」の克服を目指すヴィネケンの言説の独自性と一貫性を、ル・ボンの『群集心理』(1895年)などと比較しながら、群集論・大衆論の文脈から明らかにした。 「アジア・ゲルマニスト会議」の発表セクションでは、参加者から貴重な意見やアドバイスを受けることができ、今後の研究に向けて大きな示唆と刺激を得た。本発表の原稿は「アジア・ゲルマニスト会議」の論文集に収録される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定通り、ドイツ青年運動における群集イメージの研究をドイツ語で口頭発表することができ、論文としての公開の目途も立っている。本来は2019年度末にドイツ・ヘッセン州にある「ドイツ青年運動資料館」で資料調査を予定していたが、残念ながら新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響により、海外出張を中止延期した。海外渡航が再び可能になった時点で、上記資料館でヴィネケンを含むドイツ青年運動について体系的な資料調査を行い、今後の研究テーマの拡大、深化に繋げる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、二つの方向で研究を計画している。 一つは、ドイツ青年運動に接続させる形で、第一次世界大戦をめぐる文学および理論的著作における群集の問題に取り組む。第一次世界大戦勃発時の群集の「高揚」と「陶酔」についてはすでに多く語られているが、このような戦争初期の陶酔する群集の様子、さらに戦争を経る中で社会が機能的・組織的な集団へと変容していく様子が、どのように言説化、理論化され、神話化されていったのかを、群集論・大衆論の文脈から、フロイト、レマルク、ユンガー、ツヴァイク、アーレント、カネッティなどの著作をもとに再検討する。 もう一つは、2018年度に口頭発表を行ったカネッティの『群集と権力』について、メディア・テクノロジー環境など現代社会の諸問題に引き付ける形で改めて読解する研究を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、ドイツでの資料調査を延期したため、次年度使用額が生じた。海外渡航が可能になった時点で、ドイツでの資料調査を行う予定である。
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Remarks |
書評:須藤温子著『エリアス・カネッティ 生涯と著作』図書新聞(3404)2019年6月
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