2020 Fiscal Year Research-status Report
両大戦と群集をめぐる言説-ドイツ語圏の文学と思想を例に
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18K12340
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
古矢 晋一 立教大学, 文学部, 准教授 (20782171)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 群集・大衆 / 群集論 / メディア / カネッティ / フロイト / ドイツ青年運動 / ドイツ文学 / 第一次・第二次世界大戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は今まで取り組んできたカネッティの『群集と権力』(1960年)についての考察を軸に、二つの方向で研究を進めた。 一つは、1920年代におけるカネッティ自身の「群集体験」に一つの淵源を持つ『群集と権力』を、インターネットをはじめとする現代の新しいメディア環境とそれによって生み出された集団現象との関連で読み直す作業である。この作業を通じて、二つの世界大戦を挟んだ20世紀前半から現代までの「群集」と「メディア」をめぐる言説の連続性と断絶を改めて問い直すことができた。この研究成果は次年度以降に論文として公開予定である。 二つ目の研究として、カネッティの『群集と権力』における「群集と歴史」の章の読解に集中的に取り組んだ。カネッティは19世紀後半から第一次世界大戦、ナチズムの誕生にいたるまでの「ドイツの群集構造」を分析しているが、その際にドイツ国民にとっての「閉じた群集」としての「軍隊」にある種の宗教性を見出している。カネッティにおける集団概念としての「軍隊」と「宗教(教会)」の関係についてフロイトの『集団心理学と自我分析』(1921年)とも比較しながら、口頭発表を行った。この発表は、第一次世界大戦をめぐる群集の言説を考察するための基礎的な作業の一環である。 上記の他に2019年度に「アジア・ゲルマニスト会議」で口頭発表を行ったドイツ青年運動についてのドイツ語の論文を公開した。またドイツ文学の入門書のために、カネッティの『群集と権力』を含む作品紹介の記事を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定していた研究計画はある程度達成することができたが、新型コロナウイルス感染症の影響のため、ドイツでの資料調査を行うことができず、補助事業期間を1年延長することとした。海外渡航の見通しが立たない場合は、引き続き国内での研究および資料収集に集中する。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、引き続き第一次世界大戦をめぐる文学と理論的著作における群集の問題に取り組む。カネッティの『群集と権力』における「群集と歴史」についての研究成果を基盤に、フロイトの集団心理学やエルンスト・ユンガーの作品などを再検討する。あわせてアーレントの『全体主義の起源』の第3部「全体主義」を主たる対象に、『全体主義の起源』における群集・大衆概念の背景についても調査を行う。その際、アーレントによる強制収容所の分析にも着目し、ホロコースト生還者の手記・回想録も読解の対象とする。上記の研究は2021年度以降の継続の科研課題においても複数の研究者とともに遂行していく予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響のため、海外資料調査を行うことができず、補助事業期間自体を1年延長することとした。海外渡航の見通しが立たない場合は、引き続き国内での研究および資料収集に集中する。
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Research Products
(3 results)