2021 Fiscal Year Research-status Report
両大戦と群集をめぐる言説-ドイツ語圏の文学と思想を例に
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18K12340
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
古矢 晋一 立教大学, 文学部, 准教授 (20782171)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 群集・大衆 / 群集論 / ドイツ文学 / ホロコースト / アーレント / 全体主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度はまずアーレントの『全体主義の起源』第三部「全体主義」における「群集・大衆」の問題について、予備的な研究調査を行った。英語版とドイツ語版を適宜比較参照しつつ、『全体主義の起源』における「群集・大衆」の定義の確認と内在的な議論の整理、アーレントの思想における「群集・大衆」の意味と位置づけの検討などに取り組んだ。こうした問題を念頭に置きながら、分担者として参加している科研課題(基盤研究C21K00439「世紀転換期から第2次世界大戦後までのドイツ語圏における群集思考の歴史的展開」)の研究会にて、『全体主義の起源』第三部の「群集・大衆」に関わる議論の要約を担当し、研究代表者、研究協力者と議論した。『全体主義の起源』における群集・大衆の概念はル・ボンやオルテガの古典的な著作や第一次世界大戦をめぐる群集の言説を踏まえながらも、全体的支配を特徴づける強制収容所における被収容者の群集(心理)という問題にも繋がっている。さらにアーレントの思想における「群集・大衆」という問題を考察するためには、『全体主義の起源』以降のアーレントの著作にも取り組む必要性がより明確になった。 またもう一つの研究成果として、「災害ユートピア」における群集の表象というテーマで一般向けの発表を行った。レベッカ・ソルニットは「災害ユートピア」概念をめぐる著作の中でル・ボンの『群集心理』にも触れているが、この発表ではドイツ語圏の文学と思想(クライスト、ゲーテ、カネッティなど)を例に、群集をめぐる言説史から「災害ユートピア」の可能性と限界について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度もコロナ禍で海外調査ができず、補助事業期間をさらに1年延長することにしたが、当初予定していた計画はおおむね達成することができた。カネッティの『群集と権力』を現代のメディア環境から読み直す作業の成果は、縄田雄二編『モノと媒体の人文学――現代ドイツの文化学』(岩波書店)2022年4月公刊の論文集において発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きアーレントの『全体主義の起源』の読解に取り組み、第一次世界大戦をめぐる群集の分析、全体的支配と強制収容所における群集の問題を検討する。特にアーレントが強制収容所の分析に際して参照したオイゲン・コーゴンやH. G. アードラーなどの生還者たちの著作を集中的に読む予定である。さらに第一次世界大戦とその後の戦間期における群集の問題を理論的に考察するにあたり、歴史家ジョージ・L・モッセの著作(『英霊』や『大衆の国民化』など)も体系的に参照する。
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Causes of Carryover |
昨年度と同様、新型コロナウイルス感染症の影響のため、海外での資料調査を行うことができず、次年度使用額が生じた。次年度に調査旅費として使用する予定だが、海外渡航が難しい場合は、引き続き国内での研究および資料収集の費用に充てる。
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