2018 Fiscal Year Research-status Report
19世紀後半の精神医学、犯罪学、文学─エクトール・マロの社会派小説から─
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18K12341
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
梅澤 礼 富山大学, 人文学部, 准教授 (50748978)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | フランス文学 / エクトール・マロ / 精神医学 / 狂気 / 児童文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、マロの『義兄弟』、『シャルロットの夫』、『母』の3作品において、写実主義の時代にありながらも精神病が作家の想像力によって描かれていたこと、そしてこのことが当時の文学と精神医学の一般的な関係とは反するものであったことを明らかにした。 19世紀後半は、精神医学研究がより活発化した時代であり、作家たちは、専門資料に基づいて創作したことで知られていた。しかしマロは、光と影、色の濃淡により、登場人物が理性を失ってゆくようすを描き出し、患者を一様に入院させようとする精神科医らの姿勢を告発したのだった。(論文"La description litteraire de l'alienation mentale chez Hector Malot", 2018)。 9月には、フランスの国立図書館で当時の精神医学論文を閲覧し、精神病者に関する学術的言説を収集した。10月には日本フランス語フランス文学会秋季大会にて、マロの同郷の後輩であり狂気を描いた作家モーパッサンの専門家を招き、幻想的な文学に関するワークショップを行なった。12月には、マロからしばしばインスピレーションを受けていた作家ゾラによる専門資料の使い方について、信州大学主催の国際シンポジウム「民衆文化と文学」で発表した。3月には、マロと逆の立場から、つまり精神科医でありながら小説を描いたド・グレーフの初期小説について、ルーヴァン大学図書館にて調査した。そしてこれまでの研究結果を、九州大学主催のシンポジウム「現代における揺れ動く身体と言説」、および単著『囚人と狂気─19世紀フランスの監獄、文学、社会』(2019)で発表した。 そのほか、ローザンヌ大学医学・保健衛生史研究所のオード・フォーヴェルとコンタクトを取り、翌年度の日本フランス語フランス文学会での、マロの社会派小説をめぐるワークショップへの参加を依頼し、快諾された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題に関連するシンポジウムに2つの機関から招聘され、新たにそれらの準備が必要となったため、当初の計画を考えると(3)やや遅れていることになる。しかし調査に関しては(1)当初の計画以上に進展しており、来年度の課題であった翻訳作業もすでに進んでいるため、全体的には(2)おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は、マロの『クロード医師』、『良心』、『正義』、『共犯者』における犯罪者描写の特徴を分析し、これを同時代の犯罪学理論と比較する。 4月から8月にかけては、犯罪的登場人物を描くにあたりマロが上の4作品で見せている文学的技巧を分析する。8月にはフランスの国立図書館で、犯罪学者らの著作のみならず推理小説も参考に、執筆当時、犯罪者がどのように語られていたのかについて調査する。 10月にはローザンヌ大学のオード・フォーヴェル准教授を招き、「社会派作家エクトール・マロ」と題した国際ワークショップを開催する。3月にはその成果をもとに『知られざるエクトール・マロ─社会派作家としての側面』と題した論文を紀要か共著の形で出版する。 また、マロの社会派作品の一部を翻訳出版し、解説を加えることで、研究成果を一般にも広めてゆく。
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Causes of Carryover |
2年間にわたる研究であるため。
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