2019 Fiscal Year Research-status Report
19世紀後半の精神医学、犯罪学、文学─エクトール・マロの社会派小説から─
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18K12341
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
梅澤 礼 富山大学, 学術研究部人文科学系, 准教授 (50748978)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | マロ / 犯罪 / 原始人 / 考古学 / 光と闇 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成31年度の研究は、マロの『クロード医師』、『良心』、『正義』、『共犯者』における犯罪者描写の特徴を分析し、これが同時代の犯罪学理論とはむしろ逆行していたことを示すことを目的としていた。 4月から8月にかけては、犯罪的登場人物を描くにあたりマロが上の4作品で見せている文学的技巧を分析した。そのなかで、『共犯者』以外の3作品において、犯罪者が原始人にたとえられていること、またその苦悩を描くにあたり光と闇のコントラストが用いられていることに気づいた。 こうして9月にはフランスの国立図書館で、おもに19世紀後半の考古学の状況を中心に調査した。その結果、マロが同時代の学者ルイ・フィギエによる『原始人』という専門書を参考に作品を執筆していた可能性が明らかになった。 この発見は、まず10月27日に近畿大学(大阪)で行なった国際ワークショップの場で発表した。国際ワークショップHector Malot et ses romans sociaux(「エクトール・マロの社会派小説」)では、当初の予定どおり科研費を使って精神医学史を専門とするローザンヌ大学のオード・フォーヴェル准教授を招聘し、精神病者とマロ(フォーヴェル)、児童とマロ(他研究者)、そして犯罪者とマロ(梅澤)についてそれぞれフランス語で研究成果を発表し、梅澤が司会となって討論をした。 その後、2月にかけて、発表内容をフランス語論文にまとめあげた。論文は査読を受けたのち、La lumiere de la civilisation et l'obscurite primitive. "Le Docteur Claude", "Conscience" et "Justice" d'Hector Malotというタイトルで『ステラ』第38号に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述のように、予定していた国際ワークショップも実現することができたうえ、個人の研究としては予想以上の発見をすることができた。とくにフォーヴェル准教授からは、「マロについての真に文学的な研究の第一人者」とも称えていただいた。こうした点において、本研究課題は当初の計画以上に進展したといえる。 しかし、当初の予定では、マロの社会派作品の一部を翻訳出版し、解説を加えるはずだった。ところが出版社にかけあうも、返事をもらうことすらできなかった。同じ理由から、前述の国際ワークショップの成果をもとに『知られざるエクトール・マロ─社会 派作家としての側面』と題した国際共著での出版を目指していたが、これも進まずにいる。出版業界の状況に左右されているこの点において、本研究はやや遅れているということになる。 以上のことから、全体的な進捗状態については、おおむね順調に進展しているという判断にとどめた。
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Strategy for Future Research Activity |
マロの『共犯者』と『クロード医師』が女性と犯罪をテーマとする作品であったことから、3月には19世紀文学と女性を専門とする大阪府立大学教授の最終講義に出席し、意見交換を行う予定でいた。コロナウイルスの感染拡大により最終講義は7月に延期されたが、ここでの意見交換をもって本研究は終了となる。 とはいえ、前述のように、マロ作品の翻訳や、マロの社会派小説に関する専門書の出版は実現していない。また本研究を遂行するなかで、マロの社会派小説には、今回取り上げた精神病や犯罪に関するものだけでなく、戦争や宗教をテーマとしたものもあることに気づいた。 こうしたことから、「児童文学作家」マロの社会派小説に関する研究は、さらに視野を広げて、次年度以降も続けてゆく必要がある。
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Causes of Carryover |
コロナウイルスの感染拡大により、3月に予定していた出張が7月に延期となったため。
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