2018 Fiscal Year Research-status Report
現代ドイツ語圏文学における事実と虚構―A.シュミットとC.J.ゼッツを比較して
Project/Area Number |
18K12343
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
犬飼 彩乃 首都大学東京, 人文科学研究科, 助教 (70622455)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | ドイツ文学 / オートフィクション / ポストモダン / 現代文学 / フェイク / デジタル文学 / 多層性 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、ドイツ語圏における事実と虚構に関して戦後作家アルノ・シュミットと21世紀の作家クレメンス・J・ゼッツというアプローチの異なる二人の作家をとりあげ、それぞれ発表をおこなった。アルノ・シュミットに関しては、デビュー作となった『レヴィアータン』(1949)と『ポカホンタスのいる湖景』(1953)を中心として、目の前の事実に即しながら空想をめぐらせる多層的世界の表現方法について、翻訳の問題とあわせながら10月にドイツ・ウルム市にて学会発表をおこなった。 クレメンス・J・ゼッツについては、11月15日にメルク社・ゲーテ・インスティトゥート東京共催の文学賞メルク「かけはし」文学賞を受賞し、翻訳助成金を獲得した。授賞式に先立ち、川島建太郎教授(慶應大学)、レオポルト・シュレンドルフ准教授(首都大学東京)とともにゼッツの最新作『ボット――作者不在のインタビュー』(2018)に関してディスカッションイベントを企画・開催した。この企画にはゲーテ・インスティトゥート東京も共催として加わり、作家クレメンス・J・ゼッツ本人を招待して、チャットボットをはじめとする新しいコミュニケーション技術の発展とそれに対応する人間のコミュニケーションのあり方について理解を深めるきっかけとなった。 ゼッツの著作『ボット』におけるチャットボットを模した創作スタイルと従来の作家論への反駁に関しては、「作者のなかにいる作者―クレメンス・J・ゼッツ『ボット―作者不在のインタビュー』におけるテクストの主体」として年度末に論文を発表した。メルク「かけはし」文学賞の翻訳奨励金受領によって、ゼッツの代表的小説『インディゴ』の日本での翻訳出版が決まったことで、出版にむけての準備をはじめることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アプローチも時代も異なる難解とされる二人の作家を同時に扱う困難が予想されていたが、それぞれ着実に成果をあげただけでなく、研究の場を大幅にひろげることができた。特にドイツでの発表は国内の発表とは異なる視点からの質問が多く、ドイツ語圏の研究者とも新しく交流をもつことができた。 またメルク「かけはし」文学賞の翻訳奨励金受領によって、クレメンス・J・ゼッツの代表的小説『インディゴ』の日本での翻訳出版が決まったことで、次年度以降に研究成果を訳書として発表するための道筋ができた。ゼッツに関しては虚構とデジタルコミュニケーション技術の関連性に強い興味をもっていることが改めて分かった。また受賞によって日本でゼッツ関連のイベントが複数開催され、自分でも企画・開催することで、国内においてもゼッツを研究するドイツ文学研究者と連絡をとりあうことができ、次年度以降の研究計画に結び付けることができている。今後もさらにネットワークを拡げ、研究の発展につなげたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
クレメンス・J・ゼッツを代表する小説『インディゴ』の翻訳出版計画を進めながら、引き続きドイツ語圏現代文学における虚構と事実の取り扱い方について調査を行う。クレメンス・J・ゼッツに関しては、インターネット、ロボット、ヴァーチャルリアリティなど現代のテクノロジー発展に伴う人間の意識の変容について興味を持っていることがわかったため、次年度は国内の他の研究者と共同でシンポジウムを開催し、多角的に作風を分析する試みを行う。 アルノ・シュミットの事実に即しながら空想を取り混ぜる多層的テクスト構築方法とその問題点については、昨年度の学会発表をもとにドイツの学会誌に論文を投稿する予定である。どちらの作家も事実と虚構をひとつの作品内で同居させるために、テクストの多層性構築にこだわっているため、テクスト分析をさらに進め、テクストが多層的に読解できる箇所の抽出を行う。
|