2020 Fiscal Year Research-status Report
現代ドイツ語圏文学における事実と虚構―A.シュミットとC.J.ゼッツを比較して
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18K12343
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
犬飼 彩乃 東京都立大学, 人文科学研究科, 助教 (70622455)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ドイツ文学 / オートフィクション / ポストモダン / 現代文学 / フェイク / デジタル文学 / 多層性 |
Outline of Annual Research Achievements |
インターネットをはじめとする事実ではない言説の流布や文学における虚偽と事実の関係について、実験的な小説を創作したオーストリアの若手現代作家クレメンス・J・ゼッツの作品分析ならびに訳書の出版準備を中心として活動した。本作家については、作家を招聘しての国際研究集会を秋に企画していたが、コロナ禍により作家の来日が叶わず、翻訳書出版もあわせて延期になった。両方とも2021年度にあらためて企画・公刊を行うこととし、2020年度はその準備をひきつづき行った。また、集会の成果を論集として出版する企画についてもあわせて着手した。 2012年に発表されたゼッツの小説『インディゴ』において扱われている複合的なテーマののうちのひとつに「不気味なもの」がある。これに関して、エルンスト・イェンチュの論文「不気味なものの心理学」(1906)と当該小説を比較分析した論文を1本発表した。精神科医であるE・イェンチュの先駆的な論文で例証されている、不気味な感情が起きる諸原因について、その具体例の多くが引用、類例もしくは反例の形で、クレメンス・ゼッツの『インディゴ』においても確認できることがわかった。ジーグムント・フロイトはこのイェンチュの論文を先行研究として論文「不気味なもの」(1919)を執筆している。ゼッツは、真偽の不明なコピーについて語るために、フロイトのみならずイェンチュの当該論文までさかのぼって詳細に論を検討し、小説内で言及していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初2020年中に終える予定であったクレメンス・ゼッツの作品研究、そして国際研究集会の開催が、コロナ禍による作家の来日延期に合わせて延期になり、渡欧してのリサーチが不可能であったことなどからも、多くの予定が2021年度へとずれ込むことになった。2020年度中に準備は行っていたので、次年度にある程度は回復可能と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は訳書の刊行と国際研究集会の開催を行うことでクレメンス・ゼッツ研究の成果をまとめ、学会誌に論文投稿を行うほか、論集の出版について引き続き企画・取りまとめを行う。もう一人の分析対象作家であるアルノ・シュミットについては一部の計画を縮小し、作品分析をゼッツとの比較において取り上げることで期間内の計画完了を目指すこととする。
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Causes of Carryover |
計画当初は、2020年夏に渡欧し、ドイツ語圏の図書館を訪れ作家に面会することで、インタビューならびに資料の渉猟、リサーチを行う予定だったが、コロナ禍により渡欧が不可能となった。さらに集会や学会参加のための旅費も不要となったため、余剰分をそのまま次年度へと繰り越した。 2021年度も渡欧は困難と考え、繰り越した金額は予定している国際研究集会のリモート開催のための準備や図書資料の購入などに充てる予定とする。
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