2018 Fiscal Year Research-status Report
Representation of the creative space in Modern France : library, darkroom, atelier and salon
Project/Area Number |
18K12344
|
Research Institution | Dokkyo University |
Principal Investigator |
福田 美雪 (寺嶋美雪) 獨協大学, 外国語学部, 准教授 (90632737)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 近代フランス文学 / 近代フランス美術 / 近代フランス建築 / 私的空間 / 書斎 / サロン |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の研究計画通り、19世紀フランス文学における「書斎」の表象について考察を進めた。19世紀前半の文学には、とくに復古王政期から七月王政期に流行した、オリエンタリスムの影響によって、異文化の珍奇な品々を無秩序に並べた、骨董陳列室の様相を呈し、それらの視覚的イメージが書斎の主の想像世界に強烈な影響力を持つ、という構造が見られる。バルザックの『人間喜劇』の諸作品にいくつもの例が認められるが、バルザック自身の書斎が、観劇や旅行といった外的な社交生活から持ち帰ったイメージを統合し、再構築してひとつの想像領域を創出する場であったことに鑑みれば、作品世界における「書斎の主」は、程度の差はあれ作者自身の分身とみることができる。 また、書斎にいる人間は私的空間のなかにいながらにして、街路の雑踏など「音」の刺激にも敏感である。そのひとつの例は、18世紀末から20世紀にかけて夜明けのパリに響いていた中央市場の「音」が喚起する風景が、19世紀文学におけるパリ表象に重要な意味を持ったことである。この点については、ユゴー、フローベール、ゾラ、プルーストの作品を手がかりに紀要論文にまとめることができた。 19世紀後半になると、文学者の書斎は、書簡や自筆草稿などに証明される作品の生成現場であるだけでなく、訪問する同業者、批評家、芸術家、ジャーナリスト等の存在によって、文壇における影響力を戦略的に形成し、作品をいかに世間に受容させるかをコントロールする場ともある。その例として、自然主義作家の短編集『メダンの夕べ』が発表され、現在も記念館として保存・公開されているゾラのメダンの邸宅が挙げられる。この点に関しては、現在印刷準備中の紀要論文で論じた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度では、画家のアトリエと同じく「メゾン・ミュゼ」として公開されている、マレのユゴーの家、パッシーのバルザックの家、メダンのゾラの家、イリエ・コンブレーのプルーストの家などを訪れ、作品の「生成現場」が「受容史」をも記録する記念碑的空間になっていることを調査する予定であった。しかしメダンのゾラ記念館は現在リノベーションのため休館中などの事情により、予定していたフランスでの文献調査はできなかった。 しかし、本研究に大きな示唆を与えた『イマジュリー:19世紀における文学とイメージ』(共訳、2019年1月、水声社)の著者であるフィリップ・アモン氏、また『ゾラとメダンのグループ』(未訳)においてメダンに集った自然主義グループについて研究を進めているアラン・パジェス氏に、研究の今後の方向性について助言を仰ぐことができた。 一年目の研究と二年目の研究(暗室)をつなぐうえで、自身も写真術に傾倒し、自宅に現像用の暗室を作ったゾラとメダンの家の関係は、やはり見過ごせないため、2019年の再オープン後に実地調査を行う予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度に得られた成果をもとに、引き続き「私的空間」のありようが、文学生成にどのような重要性を持っているのか、また本来閉じた「私的空間」が写真や映像に撮られたとき、その作家や作品をめぐる「神話」の形成にどのような影響を与えたを考察していく。 上記の問題を研究するにあたり、19世紀の重要な写真家、ナダールやエチエンヌ・カルジャが同時代の文学者たちと結んでいた関係に注視する必要がある。ナダールに関しては、近年日本でも重要な研究書の刊行が続いたが、シャンフルーリ、マクシム・デュ・カン、モーパッサンなど、19世紀の写真と文学の関係を明らかにしてくれる作家たちについて、まだ研究がなされるべき余地が大いにある。 写真自体が当時は「芸術」ではなく「産業」的イメージの代表とされ、イメージを無限に複製するもの、すなわち芸術の「敵」とみなされていたことを踏まえつつ、産業と芸術の間にどのような競合関係があり、それが協同関係へと変容していくのかを、「撮られた書斎」のイメージや、「書かれた写真」のイメージを例示しつつ研究を進める予定である。
|
Causes of Carryover |
当該年度に予定していた、フランスへの出張が実施できず、確保していた旅費が不要となった。次年度の繰り越し分は、旅費に繰り入れ、フランスへの資料収集、研究打ち合わせのための出張費として使用する予定である。
|
Research Products
(2 results)