2019 Fiscal Year Research-status Report
Representation of the creative space in Modern France : library, darkroom, atelier and salon
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18K12344
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
福田 美雪 (寺嶋美雪) 青山学院大学, 文学部, 准教授 (90632737)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アトリエ / パリ万国博覧会 / ジョルジュ・サンド / エミール・ゾラ / フランス国立工芸院 / フーリエ主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、近代フランスの社会において、「公」と「私」の空間領域がどのように把握・認識され、文学や美術表象において描き分けられたかを考察している。そして、都市空間に氾濫する産業的なイメージをとりこみ、複製・増殖する私的空間を、「書斎」「暗室」「アトリエ」「サロン」という4つのタイプに分類し、その表象を比較しながら互いの影響関係を明らかにしようと試みてきた。 当該年度では19世紀における「アトリエ」の表象の多様性について考察した。その際、芸術家のそれにのみ着目するのではなく、本来的な意味により近い「職人の工房」に目を向けた。そして、芸術の創造空間だけではなく、工芸品の生産空間としてのアトリエにも19世紀の文学者が関心を払ったことを明らかにした。この背景には、19世紀に5度にわたって開催されたパリ万国博覧会の影響を指摘できる。 万国博覧会については、これまでの先行研究を踏まえたうえで、「芸術」と「工芸」の展示コンセプトと実際の展示品、および万博を見学した文学者のルポルタージュを調査した。その結果、年代が下るにつれて「産業と芸術の調和」が強調され、職人の手仕事の復権、その芸術性への再評価が目指されたことがわかった。万博が後押ししたシノワズリやジャポニスムの流行が、当時の文学者の書斎や芸術家のアトリエを浸食したことも関係しているだろう。 ジョルジュ・サンドやジュール・ヴァレス、エミール・ゾラといった、労働者階級に関心を寄せた文学者は、とくに「アトリエ(工房)」の描写を通じて、職人の手仕事の復権を訴えている。イギリスのアート・アンド・クラフツ運動やフランスのアール・ヌーヴォーといった、世紀末のヨーロッパに広がる「芸術」と「産業」の融合という理想が、フーリエの社会主義の影響を受けた作家によって予告されていることは新しい発見であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
単年度で扱うテーマについては、調査の順序が前後することもあったが、文学・美術・文化史など関連分野の研究が進んでいることも手伝って、当初の計画以上に領域横断的な視野が開けていることは確かである。とくに「アトリエ」の表象に関する調査では、当初画家や彫刻家のアトリエを念頭に置いていたが、むしろ職人の「工房」という本来的な意味でのアトリエに注目することで、その空間がはらむ多義性を見出すことができた。また、「私的空間」とは一見かかわりのなさそうな「万国博覧会」にも着目することで、産業と芸術が不可分に結びついて新たな価値観を創出する、19世紀後半のフランス社会の特異性を再確認することができている。 2020年度3月には、資料調査・研究打ち合わせのために京都出張、フランス出張を予定していたが、新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、移動を自粛し、計画を中止した。3月中旬にはフランスとの往復自体がほとんど不可能な状況であったため、判断自体は正しかったといえる。実際に、参加予定だった3月20日のゾラ・セミナーは、パリにおける感染拡大のため直前に中止となっている。「アトリエ」や「暗室」について調べるため、パリのヨーロッパ写真美術館、装飾美術館、パリ工芸博物館(国立工芸院付属施設)などで文献蒐集、実地調査を行う予定だったが、現時点でも臨時閉館中である。 上記の事情により、年度をまたいで研究の遅滞が発生している事実は否めない。しかし、国外出張をとりやめたことで、個々の文献を読みこむ時間が増え、先行研究を踏まえたうえで今後の方向を考えることができたのは予期せぬ収穫であった。できる限りインターネットで資料に当たる可能性を模索し、新たな成果発表の準備へとつなげたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年に生じた新型コロナウィルスの感染拡大という予期せぬ事態によって、当初構想していた研究実施計画を修正する必要が出てきた。とくに、国外での学会発表については、直前の延期や中止も充分にあり得るため、慎重に状況を見て判断したい。 しかしその一方で、資料にアクセスできれば研究を進められる人文学の研究者にとって、リモートワークの環境整備は進んでいるといってよい。本計画で閲覧の必要な19世紀の新聞、版画などは、現在進行形でデジタル化が進んでいる。フランス国立図書館のデジタルアーカイブスを活用する、日仏の間でオンラインミーティングを設定するなど、無理な渡航計画を立てずとも、効率よく成果を得る方策を探りたい。
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Causes of Carryover |
2020年2~3月に、調査研究のための国内出張、およびフランス出張を予定していた。しかし新型コロナウィルスの感染拡大の時期と重なったため、両方ともとりやめた。執行予定の予算として計上していた旅費が使用できず、結果として次年度使用額が生じている。 次年度繰越をしたとしても、フランス出張がいつ頃可能になるのか、現時点での先行きは不透明である。しかし、状況に合わせて研究計画を修正し、旅費としての予算が使えないとしても、通信環境を整えてフランス国立図書館のデジタルアーカイブスを活用したり、研究者とのオンラインミーティングを設定することを検討している。
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Research Products
(1 results)