2020 Fiscal Year Research-status Report
Representation of the creative space in Modern France : library, darkroom, atelier and salon
Project/Area Number |
18K12344
|
Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
福田 美雪 (寺嶋美雪) 青山学院大学, 文学部, 准教授 (90632737)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 写実主義・自然主義文学 / 芸術家小説 / アトリエ / サロン / ゴンクール兄弟 / ジャポニスム |
Outline of Annual Research Achievements |
近代フランスの文学において、一般的な私的空間には括られない異質な場として表象される、芸術家の「アトリエ」や「サロン」の表象を分析した。リアリズムや自然主義のさまざまな「芸術家小説」の比較を試み、オンラインシンポジウムで1件の研究発表を行った。 テキストのコーパスは広く取り、画家ドラクロワ、フロマンタン、アモリー・デュヴァルの回想録、ポール・ド・コックやゴーティエによるパリ・スケッチも含めたほか、バルザック、ミュルジェール、ゴンクール兄弟、ゾラ、モーパッサン、ユイスマンスなどの作品を比較検討の対象とした。これらの作家、画家はいずれも、19世紀の社会・文化的背景を創作活動に反映させることで、当時の美術潮流に影響力をもっていた。彼らが一様に、私的空間であるアトリエやサロンを特権的な場とみなしている点に着目し、次のような結論を得た。 19世紀に盛んに制作された「芸術家小説」には、おおまかに3つのカテゴリーが存在する。第1に、芸術家集団の風俗スケッチを意図した、群像劇あるいは教養小説としての作品である。第2に、モデルと画家の恋愛と破局を主題とする、恋愛小説としての作品である。そこには「見るもの」と「見られるもの」、「模倣するもの」と「模倣されるもの」という関係性を通じた、ミメーシスの問題も絡んでくる。第3に、特定の時代の美術潮流や作者自身の美術批評を再構成することで書かれた、芸術の創造行為そのものをテーマとするモデル小説である。 もちろん上記のカテゴリーは厳然と分かれているわけではなく、バルザックの『知られざる傑作』(1831)やゴンクール兄弟の『マネット・サロモン』(1867)、ゾラの『制作』(1886)など、3つの特徴すべてを備える作品も存在する。そこには公と私、自己の葛藤と他者の干渉が混在する、19世紀の私空間特有のメッセージ性に満ちた「サロン的なアトリエ」が描かれている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染拡大に伴う渡航制限、国内学会・研究会の中止や延期が相次ぎ、予定していたフランス出張は取りやめとなった。また、フランスでの調査をベースに発表する予定であった論文を、リモートワークその他のオンライン業務のため完成させることができなかった。しかし、国外調査ができなかった分、インターネットで閲覧できる資料を大量に読むことができ、1月には一件のシンポジウム発表をzoom上で行うことができた。研究計画を作成した当時とは状況が大きく変化したが、フランスでのシンポジウムもオンライン参加が可能になってきており、成果発表の機会損失は否めないが、進捗の遅れは最小限にとどめることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
新年度以降も、国内外の移動制限は続いており、渡航したとしても到着時・帰国時の隔離期間が必要となる。フランスの各施設もロックダウンが始まれば閉館されることになり、これらのリスクや時間的なロスを踏まえると、年度の前半に渡航計画を立てることは難しい。夏季にフランス出張を行い、資料収集・調査に当たるという計画は、実現可能性が薄いため、その期間を日本語論文執筆に充てて、秋に刊行される学内紀要に発表することを予定している。状況を見て慎重に判断したいが、フランスのシンポジウムや研究会には継続的にオンライン参加し、研究者とコンタクトをとったうえで、年明け以降に一度はフランス出張を実現したいと考えている。
|
Causes of Carryover |
前述の通り、新型コロナウィルス感染拡大に伴う渡航中止のため、予定の海外出張がとりやめとなった。また、国内学会・研究会も同じく中止かオンライン開催となったため、交通費や宿泊費を支出する必要がなくなり、旅費がゼロとなっている。また、通信費等の支出も発生しなかったため、研究費はすべて書籍やリモートワークに必要な機器などの物品購入に充てた。なお、今後もこうした状況が続く見通しとなったため、次年度使用額も必要な書籍購入への配分を高く設定し、現在も執行中である。
|
Research Products
(1 results)