2022 Fiscal Year Research-status Report
Representation of the creative space in Modern France : library, darkroom, atelier and salon
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18K12344
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
福田 美雪 (寺嶋美雪) 青山学院大学, 文学部, 准教授 (90632737)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 写真術 / 版画芸術 / リアリスム / ナダール / ギュスターヴ・クールベ / ジュール・ヴェルヌ / エミール・ゾラ / 『ルーゴン=マッカール叢書』 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、2件の日本語論文を学術雑誌に発表した。 「フェリシテ・ルーゴンの2つのサロン 『ルーゴン家の繁栄』と『プラッサンの征服』読解」(『青山フランス文学論集』第31号、青山学院大学フランス文学会、2022年12月、110-136頁)では、エミール・ゾラの『ルーゴン・マッカール叢書』(1871-93)のうち、地方都市プラッサンを舞台にした連作について、第二帝政期の社会における「社交サロンの政治性」という観点からテクスト分析を試みた。フランス革命から続く共和派の暴動と革命の歴史、そして第一帝政から続く保守派・カトリックの政治的駆け引きを象徴する、社交界の女主人フェリシテのサロンという私空間の表象を分析した。本論文にもとづいた口頭発表を、2023年度フランス語フランス文学会春季大会中に行われる自然主義文学研究会において予定している(2023年5月27日、於慶應義塾大学日吉キャンパス)。 「写真術の誕生と芸術家たち 緊張・交流・変化」(『青山学院大学文学部紀要』第64号、2023年3月、157-177頁)においては、19世紀初頭にした写真術、具体的にはダゲレオタイプとカロタイプが初期にはどのようなインパクトを社会に与え、普及し受容されていったかについて、同時代の版画家や芸術家、文学者の反応を比較しながら、通時的に整理した。複製芸術としての写真については、産業と芸術の対立という問題をめぐって多くの論考が存在する。しかし本論では、18世紀のリトグラフィの延長線上に写真術が誕生したこと、同時代に発展した気球飛行と密接に結びつき、やがては写真家ナダールによる空中撮影や科学と空想の融合したヴェルヌの『驚異の旅』シリーズへと発展すること、19世紀中頃による画家クールベによる「レアリスム宣言」や、19世紀後半の風刺画の隆盛にも写真術の実用化が寄与したことなどを多角的に論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画は、コロナ禍をはさんで2度の延長を余儀なくされており、フランスでの資料調査こそ実現できなかったものの、2022年度は遅れを挽回できる成果が挙げられたと考える。その背景には、日仏のオンライン交流が活発になり、シンポジウムや研究会への参加も容易にできたこと、また本研究のコーパスとなる資料のほとんどが、フランス国立図書館Gallicaのオンラインデータベースで収集できたことが挙げられる。 2022年11月には、パリ第3大学よりゴンクール兄弟やゾラなどの19世紀文学を専門とする、エレオノール・ルヴェルズィ教授が来日した。自然主義研究会のメンバーによって主催されたゴンクール・シンポジウム(11月19日、於日本女子大学)やゾラの『ルーゴン=マッカール叢書』における「鏡」についての講演会(11月21日、於東京大学)は、本研究計画が問題とする「芸術作品の生成と近代的な私空間の関連」と重なるテーマであり、研究者同士の質疑応答、議論を通じて多くの示唆を得た。 また、研究計画と間接的に関連する活動として、青山学院大学総合研究所研究ユニットの共同プロジェクト(フランス・オペラをめぐる音楽研究と文学研究の交差)や、青山学院大学文学部附置人文学研究所のシンポジウム企画(近現代のマイノリティ文化をめぐる文学・美術研究の交差)においても、異なる言語圏の文学研究者、あるいは音楽・舞台芸術専門の研究者との領域横断的な学術交流を行うことができた。関心の近い研究者との交流を積み重ねることで、今年度発表した論文についても、複数の助言、あるいは批判を受けながら、当初の研究計画をより視野の広いものに修正することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は夏季に、3年ぶりとなるフランスでの資料調査を予定している。Gallicaではアクセスできない資料を現地で閲覧する、あるいはコロナ禍においてオンラインのみで交流してきた研究者と対面で会うことを目的としている。 また、すでに2021年に口頭で発表した成果である、「近代フランスの芸術家小説が描く「創造の場」」(於リアリズム文学研究会)は、共著『室内 私空間の近代』(幻戯書房、2024年1月刊行予定)において新たに論文として書き下ろす。同じく「イラストでよみがえる古典 『ペロー寓話集』とギュスターヴ・ドレ」(於武蔵大学公開講座)は、共著『シンデレラの末永く幸せな変身』(水声社、2024年1月刊行予定)において、論文にまとめなおす予定である。 2023年度は、これら2つの共著のほかに、本研究計画で発表してきた論考を単著として刊行する準備に充てる(2024年度中に法政大学出版局より刊行予定)。研究代表者として個人で進めてきた研究計画をもとに、すでに複数の共同研究計画が始まっており、単著を集大成としてまとめながらも、これまで共同研究してこなかった分野の研究者と領域横断研究を始動させる準備を進める最終年度としたい。
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Causes of Carryover |
2022年度に計画していた国外出張がコロナ禍および欧州の不安定な政情、燃料費の高騰等の諸事情により実施できなかったため、旅費の支出が国内学会1件のみにとどまっている。 この出張は、2023年夏季(8月下旬)および冬期(1月初旬)に分けて実施する予定である。
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Research Products
(2 results)