2018 Fiscal Year Research-status Report
日本におけるポール・クローデルの受容-クローデル作品の能劇化を中心に-
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18K12345
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
西野 絢子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (60645828)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | クローデル / 能 / 日仏交流 / 受容 / 比較文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年はクローデル生誕150周年にあたり、様々な学会で登壇する機会に恵まれたおかげで、日本におけるクローデル受容について、能との関係にとどまらず、大正期の日本の文壇や社会主義者の目からみたクローデル像を掘り下げることができた。それにより、クローデルが考えている日本像の限界も明らかになった。 まず4月に慶應大学で国際シンポジウム「クローデルと日本ー交叉する視線」を企画し、クローデルと能というテーマが、大正から現在まで日仏を往復している様子について、主に新作能の分析を中心に発表した。5月はシカゴ大学で行われた国際シンポジウム「クローデルの世界主義(世界統一を説くカトリック詩人)」に登壇し、日本におけるクローデルの世界主義の様相とその限界を明らかにした。9月はソルボンヌ大学での国際シンポジウム「クローデルとアクチュアリティ」に登壇し(諸事情により音声にて)、大正期の日本人にクローデルが与えた影響、特に小牧近江という人物との関わりについて解明した。 いずれも日本語による資料(新作能の詞章や上演プログラム、大正期に出版された文学雑誌のクローデル特集号やクローデルに捧げられた日本人作家による作品集等)を材料に分析し、フランスのクローデル研究では成されていない問題を提起した。 また夏・秋にかけては、「ジャポニスム2018」のプログラムである「能・狂言パリ公演」にむけて、プログラムや字幕に掲載される能と狂言および解説文の仏訳を行った。この作業を通じ、能・狂言の作品理解が深まったとともに、異文化に発信することの困難さ、発信するための工夫の仕方などについても学ぶことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
進展できたのは、登壇した3つの国際シンポジウムが予想以上に有意義であったことが理由といえる。4月に企画した国際シンポジウムでは、クローデルの専門家だけでなく、演出家や能楽師も招いて意見を交換したことにより、研究における視野を広げることができた。シカゴの国際シンポジウムではアメリカのクローデル研究者と交流する機会を初めて持つことができたため、今までにない視点から「クローデルと日本」というテーマを捉えるためのインスピレーションを受けた。それを生かしてソルボンヌでのシンポジウム原稿を準備し、クローデルが大正期の日本人に与えた影響の一部を探ることができた。 能のパリ公演にむけて、能3作品、狂言2作品のテキストと字幕を翻訳し、フランスに日本文化の一部を発信する作業の中で、また新たな視点からクローデルと能というテーマを考えることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
日本におけるクローデル劇の受容について、作品ごとに翻訳・上演の歴史を調査し、劇評も参照しながら、特にクローデル演劇のカトリック色が日本人にどのように響いたのかを解明する。その際フランスでの演出の様子とも比較する。主に、『黄金の頭』、『繻子の靴』、『火刑台上のジャンヌ・ダルク』の受容について調査する予定である。 クローデルの能解釈について、能楽師へのインタビューにより、クローデルの解釈の独自性を明らかにしていく。能楽師の意見とクローデルの意見が響きあう部分のみならず、反対に、ずれが生じていればその部分も掘り下げていく。
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Causes of Carryover |
諸事情で、当初計画していたフランスでの調査が行えなかったため、旅費がかからず、次年度使用額が生じた。次年度は、育児休職明けに、主に書籍(日仏交流、フランス演劇、能楽関係)を購入し、また能楽師へのインタビュー謝礼、場合によっては国内調査の旅費に使用する予定である。フランス語論文を執筆する際は校閲の謝礼にも使用する。
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Remarks |
Ayako NISHINO, Chloe Viatte Hemmi,Traduction des livrets du no et du kyogen, Programme pour le Theatre no et kyogen, Cite de la musique, Philharmonie de Paris, Nikkei, 6-10 fevrier 2019, p.14-65.
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