2021 Fiscal Year Research-status Report
日本におけるポール・クローデルの受容-クローデル作品の能劇化を中心に-
Project/Area Number |
18K12345
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
西野 絢子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (60645828)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | フランス文学 / 日仏文化交流 / クローデル |
Outline of Annual Research Achievements |
大正期の日本におけるクローデル像を解明すべく、日本のプロレタリア文学の父である小牧近江によるクローデル受容についての考察を、昨年発表したものに続く考察として、学内紀要に発表した。小牧が雑誌『種蒔く人』に掲載したクローデルに関する記事を分析し、また関東大震災における亀戸事件に対する小牧とクローデルの反応を比較分析した。震災ルポルタージュとしての記録や、クローデルの外交文書をてがかりに、「民衆のために」行動する両者の共通点が明らかになった。同時に、クローデルがみた当時の日本社会・日本人像も浮き彫りになったことは収穫であった。また、クローデルの外交文書と文学テキストを比較することで、新たなクローデル作品の読解ができたことも有意義であった。 いわゆる出版した目に見える成果ではないが、大学の通信教育課程のために、夏期スクーリングを担当し、オンデマンド教材で発信するために、「クローデルと日本演劇」というテーマを改めて日本語で掘り下げたことは、今後の研究を発展させるのに有意義な機会であった。受講者からの反応も含めてさらに考察を深めていく。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度に引き続くコロナ禍で、二人の幼い子供の育児をしながら研究時間を確保することは極めて困難であった。更に、学内業務で2年任期の負担の多い役割を担当することになり、初年度で不慣れということもあり、多大な業務時間を割く必要があった。大学の講義の準備をすることすら非常に難しい状況であった。
|
Strategy for Future Research Activity |
「日本におけるクローデルの受容」を総括的に明らかにする上で、以下3点を中心に取り組む。①新劇の父・岸田國士によるクローデル受容:岸田はクローデルの戯曲は翻訳しなかったが、先駆劇壇として注目し、クローデルについて語る文章の中、『人質』から原文で一節を引用している。なぜ『人質』から引用が行われたのかを解明しながら、岸田におけるクローデル解釈とその影響について分析する。その際、日本におけるフランス演劇受容の特徴を整理した上で受容史の中に位置付ける。②クローデルの翻訳劇の問題:クローデルの戯曲はあまり翻訳・上演されていないが、日本でも上演頻度が高い秘蹟劇『マリアへの御告げ』に注目し、青猫座・文学座が上演したときの翻訳台本・劇評等を通史的に調べながら、この戯曲が日本人に何を齎すのかを考察する。特にフランス人にも抵抗があるとされている、カトリック独特の感性は日本人にどのように響くのかを、フランスでの受容と比較しながら、これも通史的に社会状況も考察しながら解明する。同様に、オラトリオ『火刑台のジャンヌ・ダルク』も取り上げるが、いわゆる護教的な作品ではない点を踏まえ、「カトリック作家」としてのクローデルの問題も扱い、日本のカトリック作家(賀川豊彦、遠藤周作等)との違いも明らかにする。③クローデルとジャポニスム:クローデルの日本体験を、「文学のジャポニスム」として捉え、ジュディット・ゴーティエ、ピエール・ロチの場合と比較することで、日本におけるクローデル受容の特異性をまとめる。例えばゴーティエの『蜻蛉集』とクローデルの『百扇帖』を取り上げ、創作過程における画壇や文壇との交流体制、作品受容の比較を行う。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、コロナ禍で当初予定していたフランスでの調査、そして国内での調査も行えなかったため、旅費・インタビューによる謝礼が発生しなかったことにある。次年度は、主に書籍(日仏交流関係、ジャポニスム、19・20世紀のフランス演劇、フランス文化・文学・文学史、日本文学、大正期の文学関係等)を購入し、また舞台芸術の映像資料や電子配信視聴料、そして可能であれば関係者へのインタビュー謝礼、場合によっては国内調査の旅費に使用する予定である。フランス語論文を執筆する際は校閲の謝礼にも使用する。
|