2022 Fiscal Year Research-status Report
日本におけるポール・クローデルの受容-クローデル作品の能劇化を中心に-
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18K12345
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
西野 絢子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (60645828)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | フランス文学 / 日仏文化交流 / クローデル / 能楽 |
Outline of Annual Research Achievements |
大正期の日本におけるクローデル像を解明すべく、21年度は日本のプロレタリア文学の父である小牧近江によるクローデル受容についての考察をしたが、22年度は、新劇の父である岸田國士による受容について考察し、学内の紀要に論文を発表した。岸田は、大正期の日本人は勿論、同時代のフランス人の感性からも飛躍していたクローデル演劇を、翻訳し移入することはしなかった。しかし、クローデル劇の真髄を深く理解していたことは、大正期に岸田が執筆したフランス演劇に対する考察や紹介文、クローデルに捧げられた記念文集『ゆかり』へ掲載されたエッセイからもよみとれる。岸田は、コポーを理想としながら主張していた純粋演劇理論の典型を能楽にみいだし、岸田自身は無意識でも、そこにクローデルの能理解と重なる部分があったことを部分的にではあるが、明らかにした。また、学内で久保田万太郎について考察する機会があり、大正期のフランス演劇受容を再検討したところ、久保田や岸田から現代に到る日本の演劇について関心が広がり、特に、現在フランスやドイツでも評価されている、岡田利規の演劇や能の翻案に触れたたことは大きな収穫であり、今後も考察していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍はやや緩和されたものの、諸事情で研究時間を確保することが非常に困難であった。さらに、学内業務で負担の多い役割の2年目を担当し、多少慣れた面もあるが、業務にはやはり多大な時間を割く必要があり、体力的にも限界を感じざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
「日本におけるクローデルの受容」を総括的に明らかにする上で、以下2点を中心に取り組む。 ①吉江喬松によるクローデル受容:小牧近江、岸田國士に続き、クローデル受容に積極的に貢献した仏文学者、吉江喬松のケースを考察していく。吉江は、クローデルと同じく象徴派の劇詩人とされるメーテルランク受容にも精力的に働き、メーテルランク・ブームの推進者の一人でもあった。ここで吉江によるクローデル受容をメーテルランク受容と比較しつつ、日本における両者の受容の比較について発展させて考察したい。さらに大正期から現代に到るまで、象徴演劇と遠くない不条理演劇も視野にいれ(メーテルランクとベケットの近親性など)、また、両者がよく能との関連で言及されることも踏まえ(イヨネスコと能など)、綜合的に考察していく。その際、別役実や岡田利規の能楽理解も参照する。 ②カミーユ・クローデルの日本受容:クローデルの姉、美貌の彫刻家カミーユは、外交官としても詩人としても成功した弟ポールの悲劇的分身といわれている。天才彫刻家ロダンの愛人でもあり、愛と才能の挫折の末、精神病院で生涯を閉じる、という衝撃的な事実は、1980年年代、フランスでカミーユ再評価によるブームが起こって以来、日本でもよく知られている。以後様々な伝記や書簡、資料、映画、研究書が発表されてきたが、現代までの日本受容を分析し、二人の芸術家の本質にせまりながら、ポール・クローデルの日本受容研究の一部に組み込んでいく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、コロナ禍で当初予定していたフランスおよび国内での調査が、やはり行えなかっため、旅費・インタビューによる謝礼が発生しなかったことにある。 2023年度は、可能であれば主に国内外調査の旅費に使用するが、実現が難しい場合は、書籍(日仏交流関係、象徴演劇、不条理演劇、現代日本演劇関係、19・20世紀のフランス演劇、日本文学、大正期の文学関係等)を購入し、また舞台芸術の映像資料や電子配信視聴料、そして可能であれば関係者へのインタビュー謝礼、に使用する予定である。フランス語論文を執筆する際は校閲の謝礼にも使用する。
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