2021 Fiscal Year Research-status Report
ルソーにおける父親像の総合的研究:18世紀フランス文学に表象される父親像を通して
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18K12347
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
井関 麻帆 福岡大学, 人文学部, 准教授 (70800986)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 仏文学 / 思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、ルソーの諸作品に描かれる父親と、18世紀フランス文学作品に描かれる父親とを比較検討し、「ルソーにおける父親像」の特徴を明らかにした上で、18世紀フランスという時代のなかで変化する「父親」の社会的役割との関係、つまり「ルソーにおける父親像」誕生の歴史的意味の解明を目指している。 令和3年度は、18世紀フランスにおける父親像をより明確に把握するため、公開を前提として執筆された作家や思想家の自伝的作品から離れ、庶民が書き残した自伝的テクストを分析した。なかでも、パリのガラス職人ジャック=ルイ・メネトラが書き残した『わが人生の記』は、当時の社会を知り得る貴重な資料であり、また父親が脚色されることなく描かれていると期待できたため詳細に考察した。 その結果、懲戒権という名の暴力を振るう父親、つまり「父権を行使する父親」に対して悪感情を抱きながらも親愛の情を捨て去ることのできなかった息子メネトラの姿、そして子どもたちの幸福を祈り続ける父親としてのメネトラの姿を確認することができた。ここに、「父権を振りかざす父親」から、家長としての威厳を保ちながらも「父権を脱ぎ捨てようとする父親」への変化を読み取ることができる。また、メネトラが書き残した記録は、一貫して「父親と自分」および「自分と子ども」という家族だけを念頭に執筆されていたことも明らかとなった。これは先祖や子孫を切り離した、いわば「家」の存続を前提としない家族観である。つまり『わが人生の記』には、「近代的父親像」および「近代的家族観」が胚胎していたといえる。 これらの研究成果は、福岡大学が刊行する紀要に投稿論文として報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度も、前年度と同様に新型コロナウイルス感染症の影響によりフランス国立図書館における資料調査が困難であったため、当初予定していた研究計画を変更する必要があったが、国内における資料調査によって本研究課題を深化発展させ、研究成果を報告することができた。 また、口頭発表を予定していた国際会議も再延期となったが、前年度以上にオンライン開催される研究会に参加できたため、国内外の研究者と意見交換を活発に行い、議論を通じて本研究課題を完成させるための重要な視点を得ることができた。 以上のことから、本研究課題は「おおむね順調に進展している」と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、前年度予定していたフランス国立図書館における資料調査を行い、18世紀フランス文学作品に表象される父親像の変容過程を精査した上で、社会変動のなかで誕生した「ルソーにおける父親像」の歴史的意味を解明する。 1)これまでの研究においてデータベースを作成しながら分析の精緻化を進めているレチフやディドロ、マリヴォーなどの文学作品に描かれる父親を相対的かつ網羅的に把握し、18世紀フランス文学作品における父親像の変容過程を明らかにする。 2)18世紀フランス文学作品に表象される父親像の変容過程のなかに「ルソーにおける父親像」を位置づけ、近代的家族の誕生ひいては社会変動との関連性を見出す。 以上の考察を通して「ルソーにおける父親像」誕生の歴史的意味を明らかにし、本研究課題を完成させる。 研究成果は、国際会議における口頭発表や、大学紀要および学術論集への投稿論文を通して報告していきたい。
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Causes of Carryover |
令和3年度は本研究課題の最終年度となっていたが、新型コロナウイルス感染症の影響によりフランス国立図書館における資料調査が困難となり、口頭発表を予定していた国際会議も延期されたため、未使用額が生じた。本研究課題を完成させるため補助事業期間を再延長し、令和3年度の未使用額は令和4年度のフランス国立図書館における資料調査の経費として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)