2019 Fiscal Year Research-status Report
近世ヨーロッパにおける教育と「イソップ集」展開に関する文献学的総合研究
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18K12349
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉川 斉 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 特任研究員 (60773851)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | イソップ / 古典受容 / 比較文学 / 西洋古典 / 翻訳 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、古代ギリシア・ローマにおける「イソップ」の話の集合形成の在り方、古代から近代日本までのイソップ集の展開、近世・近代ヨーロッパや近代日本におけるイソップ受容などについて、これまでの研究をふまえて改めて幅広く検討を行い、それらの成果を単著にまとめて公刊した(『「イソップ寓話」の形成と展開――古代ギリシアから近代日本へ』知泉書館、2020年1月)。 たとえば、近世ヨーロッパでは、16世紀以来、ギリシア語原典からの翻訳ではない、大学の修辞学教師によるラテン語イソップ集が複数編纂されている。その中には、版を重ねて広く普及し、17世紀以降にも形を変えて学校教育のラテン語教科書として用いられた例も見受けられる。一方、17世紀末に英国で刊行され普及したレストランジ集(英語本)編纂の動機は、その種の一書の存在に起因する。レストランジ集は明治期日本で翻訳イソップ集の原本のひとつとして用いられており、大きな流れとして、近世ヨーロッパのイソップ集の影響が、近代日本にも及んでいたことを確認できる。ただし、受容し利用する側はそのような関係性を意識することはなく、内容面においても、時代性・地域性がどこか均質化、一般化されて理解されることも特徴といえる。この点は、今後『エソポのハブラス』について検討するにあたっても、重要な視点となると考える。 また、近世以来の各種英語版イソップ集については、「肉をくわえた犬」の話を主な対象として、挿絵との関連性も含めて、その変容の在り方を考察して、2019年8月8日に高校生向けに講演を行った(「英語で書かれた「イソップ寓話」について」)。本文テキストと挿絵の関係性は、中世写本の時代から挿絵が豊かに描かれるイソップ集の場合、興味深い主題である。本研究課題で扱うことは難しいと思われるが、今後検討する必要はあるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度は、本研究課題の調査研究の成果によって内容を補強する形で、イソップ研究に関する単著を刊行することができた。また、今年度までに、西洋近世からのイソップ集の展開の在り方を複数通り確認できたことで、次年度に検討予定の『エソポのハブラス』についても、考察するための方向性が見えてきている。なお、まだ公表には至らないが、『修辞学初等教程』と近世ヨーロッパのイソップ集の関係について検討を継続している。予定しているテキストの電子化に関しても、公開用のウェブサーバーの構築が完了し、公開に向けた準備が整いつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は、当初の計画通り『エソポのハブラス』を検討対象とし、教育との関わりも含め、個々の話の在り方に関する考察を進めて、何らかの形で公表する。具体的には、2,3の話を選別し、それらの種々のバージョンの詳細な比較検討を行う。また、ウェブサーバーの構築は完了したので、今後は情報公開用のウェブサイトの構築を急ぎ、各種テキストのTEI/XMLに準じた電子化作業および公開を進める。ただし、この点については、量的にすべてを扱うことは困難であるとともに、実験的側面もあるため、ある程度対象を限定して電子化公開を行う予定である。
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Causes of Carryover |
年度内に注文品の納品が間に合わなかった。改めて発注し購入する。
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Remarks |
研究成果公開用ウェブページの作成予定あり。 ウェブサーバーは構築済みだが、現時点でURLは未確定である。
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Research Products
(2 results)