2020 Fiscal Year Research-status Report
説話に見られる日中動物観の比較研究―『太平広記』と『夷堅志』、『夷堅志和解』
Project/Area Number |
18K12355
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Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
黄 イク 国文学研究資料館, その他部局等, 特定研究員 (10814808)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 夷堅志 / 夷堅志和解 / 太平広記 / 動物説話 / 瘟疫鬼神 / 疫鬼 / 逐疫 / 行疫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は『太平広記』と『夷堅志』における動物の説話を種類別・地域別・時代別に抽出・整理し、『太平広記』に収録された宋代以前の説話と『夷堅志』に収録された南宋を中心とする説話の比較分析を行い、両書に取り上げられた動物説話の時代的・地域的特徴を考えるものである。さらに、江戸時代に出版された『夷堅志』の和訳本である『夷堅志和解』(元禄3年(1690)序、貞享3年(1686)跋)など、日本における『夷堅志』の受容史を考察する。 本年度は「『夷堅志』瘟疫故事初論」という題目で東亜文化交流史青年学者論壇(2020年12月11日-12日、(台湾)中央研究院中国文哲研究所・国立清華大学華文文学研究所主催、オンライン)にて研究発表を行った。本発表は『夷堅志』の医事説話に見られる瘟疫鬼神の描写を抽出・分析し、「行疫」と「逐疫」という疫病を引き起こすと疫病を追い払う瘟疫鬼神の両義性およびその特徴と文化的背景を考察した。特に人間の疫病のみでなく、牛など家畜の疫病も疫鬼により引き起こされた例や、豚、猿、蛇など動物に化身した疫鬼の存在を指摘し、疫鬼の退治方法に関する記述を整理した。さらに、疫鬼退治説話の一例として『夷堅志』卷五「異僧符」説話の日本における受容を分析した。『夷堅志』の和訳本『夷堅志和解』、江戸前期的怪談小説『古今百物語評判』といった文学作品のみでなく、『麻疹養生伝』や麻疹絵、疱瘡絵、疫病除けの石像(山口県山口市仁保上郷、埼玉県秩父郡皆野町など)といった医学関連の資料にも「□□(きし)乙」という神符をめぐる説話の影響を確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
以下の予期せぬ理由により、進捗がやや遅れていると自己評価した。 ①予定していた調査が海外渡航、国内移動の制限により中止になったり、進捗が遅れたりする状況が生じた。 ②予定していた研究発表が学会の延期によって中止となった。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に続けて『夷堅志』の動物説話を抽出しデータ化して、『太平広記』と比較・分析する作業を行う。今後はより広く資料を収集し、医学関連資料、図像資料も含めて日本における『夷堅志』説話の受容史を考える。このような作業を通して、古代の中国の生物観・自然観が日本における受容・変容の経緯を考察し、中国と日本における生物観・自然観の異同を比較研究する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響により2020年度の研究活動へ支障が生じていたため、科研費の延長を申請した。よって生じた次年度使用額は実地調査や、『夷堅志』『太平広記』関連書籍の購入など、当初予定していた計画に使用する。
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