2019 Fiscal Year Research-status Report
成員カテゴリーを用いた会話の連鎖・参与構造の記述モデルの実証的研究
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18K12369
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高梨 克也 京都大学, 情報学研究科, 研究員 (30423049)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 成員カテゴリー化 / 会話連鎖 / 参与構造 / 語用論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,「会話コミュニケーションにおいて,いつ,誰が,どのような種類の発話を行い,これに対して,誰が,どのように応答するか」を体系的に説明できる枠組みとして,会話参与者の成員カテゴリーに基づく分析手法を構築し,これをさまざまな実社会場面で収録された会話コーパスを用いて検証することを目的としている.これにより,「誰が」「何を」話すかという会話における二つの基本的問題を相互に関連づけられるようになることに加え,ある成員が会話内で発話を行うというミクロな社会現象をその背後にあるよりマクロな社会的規範という観点に接合する端緒が開かれ,関連社会科学分野へのより広範な貢献も可能になると考えられる. この目的を達成するため,本研究課題では,「会話のある時点で.ある成員カテゴリーが活性化されると,ある特定の種類の言語行為を実行しやすくなる」という作業仮説に基づき,この点に関する実会話事例に基づく学術知を体系的に蓄積していくことを中心的な手法としている. より具体的には,会話場面の種類に応じて,用いられる成員カテゴリーや言語行為の種類にも,また,それぞれに特徴的な言語表現や発話連鎖パターンにも多様性があることを想定し,A) 職能中心型,B) 自己開示型,C) 知識中心型,D) コミュニティ型といった異なる種類の会話データを対象とする.これらのデータについて,①言語行為と成員カテゴリーとの間の規範的結びつき,②言語表現と発話連鎖パターン,の観点からの分析を行うことを通じて,「会話のある時点において特定の参与者が特定の種類の発話を行うのは《なぜ》なのか」を,会話事例に基づき実証的に説明できる体系的な理論的枠組みの構築を目指して事例分析とモデルの洗練化を進めている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は,対象として予定していた会話場面のうち,A) 職能中心型の場面については,起業家支援のためのワークショップにおける参与者の指さし行動を分析し,指さしのタイミングや形状などが参与者の成員カテゴリーや同時に行われれている言語行為の種類などに応じて柔軟に使い分けられていることを詳細なビデオ分析を通じて明らかにした. D)コミュニティ型については,継続調査中の野沢温泉村道祖神祭りの準備のための共同作業のビデオデータ収録を進めるとともに,このデータの分析を通じて,各参与者の成員カテゴリーの違いに応じて,行為に着手する順序や分担すべき行為の種類,行為遂行の巧拙などの面での違いがみられることを明らかにした.さらに,こうした分析に基づき,分析手法を理論的に一般化した「フィールドインタラクション分析」の方法論を提唱した. しかし,他方で,B) 自己開示型に分類される初対面会話とC) 知識中心型の友人同士の会話については,モニター公開されている「日本語日常会話コーパス」のデータを利用することを検討していたが,分析対象データの選定作業のための方針がまだ十分に確立できていない.実験的手法での会話データ収録についても,次年度も引き続きデータ収録方法のデザインを進めていく必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
分析対象データの収録に関して,B) 自己開示型とC) 知識中心型の会話データについては,日常生活環境でのデータ収録だけでなく,参加者属性や対話課題を設定した実験的環境での収録も重視したいと考えている.これについては,次年度は学生アルバイトなども用いたデータ収録を行えると考えている. 次に,分析手法について,A) 職能中心型,B) 自己開示型,C) 知識中心型については,それぞれの場面での活動目的の遂行に必要な種類の言語行為を出発点として,a) これらの言語行為と成員カテゴリーとの間の規範的な結びつき,b) これらの言語行為を遂行していくための会話連鎖パターン,の2つの観点からの分析事例を蓄積することによって,より一般的かつ網羅的なモデル化を目指す.一方,D)コミュニティ型については,自然な日常生活環境でのフィールド調査によるデータ収録を引き続き行うが,成員カテゴリーが当該の相互行為に含まれている物質的資源の操作などにも密接に関わっているため,言語的発話に加えて,物質的対象に関わる身体動作をも含めたマルチモーダル分析をさらに推し進めていく必要がある. Dのコミュニティ型と対照的な社会的場面として,上記Bの自己開示型とも一部関わるが,初対面場面のような匿名性の高い状況でのコミュニケーションの中で成員カテゴリーに基づく他者認知がどのように効率的に行われているかという点についても理論的に検討できると,成員カテゴリーに関するより広範な展望が得られるようになる可能性もあると考えている.
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Causes of Carryover |
実験的手法での会話データ収録を見合わせたことから,購入予定だったデジタルビデオカメラ等の購入を先送りした.また,このデータの書き起こし外注費も発生していない.これらはいずれも来年度に執行の予定である.加えて,実験的手法でのデータ収録では,実験参加者への謝金の支払いも行う.
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[Journal Article] How science, technology and innovation can be placed in broader visions?: Public opinions from inclusive public engagement activities2019
Author(s)
Kei Kano, Mitsuru Kudo, Go Yoshizawa, Eri Mizumachi, Makiko Suga, Naonori Akiya, Kuniyoshi Ebina, Takayuki Goto, Masayuki Itoh, Ayami Joh, Haruhiko Maenami, Toshifumi Minamoto, Mikihiko Mori, Yoshitaka Morimura, Tamaki Motoki, Akie Nakayama, Katsuya Takanashi
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Journal Title
Journal of Science Communication
Volume: 8(03)
Pages: 1-19
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Book] 指さしと相互行為2019
Author(s)
安井永子・杉浦秀行・高梨克也(編著)
Total Pages
272
Publisher
ひじつ書房
ISBN
978-4-89476-973-1