2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K12379
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
野原 将揮 成蹊大学, 法学部, 准教授 (80728056)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 上古音 / 秦簡 / 出土資料 / びん語 / 比較法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は昨年度に続き、秦簡を中心とする出土資料をもとに研究を進めてきたが、特に円唇母音に関わる語彙について、その上古音価の再構を試みた。また母音の研究といっても、円唇母音を論ずる場合、円唇性を帯びた軟口蓋音等の声母(頭子音)も考察の対象範囲に収めなければならないため、声母に関する考察もあわせて必要である。 具体的には「卵」の上古音再構に取り組み、その成果はThe 52nd International Conference on Sino-Tibetan Languages and Linguisticsで発表し、*k.ronC(Type-A、入力の都合上、咽頭化は示さない。声調はC(上声)で表す)と再構する近年の先行研究に再検証を加えた。伝世文献や[門+虫]語(Proto-Min)、ミャオ・ヤオ語(Proto-Hmong-Mien)によると、*Kr-のような二重子音を再構すべきであるが、実は出土資料からも同様の痕跡がうかがえる。たとえば秦簡では「卵」に「luan2(漢字が表記されない)」が付加される例が見られるが、安徽大学蔵戦国竹簡『詩経』では「luan2」と牙音系(軟口蓋音)の語彙との通用が密接であることが明らかとなり、してみると「卵」にも軟口蓋閉鎖音のような子音が存在したと推測される。 また雑誌論文「構擬“泉”字音―兼論“同義換讀”」は「泉」の字音の再構を試みたものである。「泉」の中古音を見てみると、明らかに合口であり、諸方言においてもやはり合口性が確認される。ところがびん語を見てみると、「泉」はむしろ開口である。本稿では中古音、諸方言の合口性はむしろ例外的であるものとしてみなし、その上古音を*dzanと再構した。例外とみなした中古音や諸方言に見られる合口性については「泉」と「原(源)」の意味の近似によるcontaminationによるものと推定する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた出張を中止にせざるを得ない状況となったが、概ね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度はコロナウィルスの影響により、発表予定の国際会議2件がすでに中止あるいは延期となり、成果を公開する機会が制限されるため、できうる限りデータの整理等に力を入れる。
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Research Products
(4 results)