2018 Fiscal Year Research-status Report
消滅の危機に瀕する八丈語の音声談話資料の拡充と継承のための教材開発に関する研究
Project/Area Number |
18K12391
|
Research Institution | Mejiro University |
Principal Investigator |
三樹 陽介 目白大学, 人間学部, 専任講師 (40614889)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 八丈語 / 消滅危機言語 / 音声談話資料 / 記述文法 / 継承教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、坂下の三根と坂上の末吉を中心に調査を行ない、自然談話音声データを収集し、文字に起こしてテキストとアノテーション情報を付与することで音声談話資料として整備する作業を行なった。併せて、これまでに作成したテキストやアノテーション情報の修正作業に努めた。 また、音声談話資料を活用するための記述文法書の作成と、併せて、先行研究を踏まえた文法記述の精緻化を進めている。本年度は動詞・形容詞・形容動詞・名詞述語等の活用体系の記述の精緻化を進めるとともに、用例収集・整理を行なった。本年度は三根・末吉両方言で作業を進めたが、他の方言でも同様の調査を進めている。なお、三根方言と末吉方言とについては、研究成果を2本の論文として上梓している。 平成30年度は、本研究にかかわるものとして国内学術誌に2本、国際ジャーナルに1本の論文を発表したほか、国内学会で1件、国際学会で4件の口頭発表を行なった。また、31年度発刊予定の書籍の中の1章について分担執筆した。国内学術誌で発表したものは用言や名詞述語の活用体系を記述したものであり、動詞以外も含めて活用体系を一覧できるようにした点や、末吉方言の活用体系の現状を詳述し一覧できるようにした点は意義があるものと考える。国際ジャーナルに発表した論文は言語継承に関するもので、八丈語の紙芝居について5月のスロヴェニアで開催された国際シンポジウムに招待された際の発表内容を基に論じたものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は新しく音声データを収集するだけでなく、これまでに収集したデータの再分析を行ない、研究成果の発表に努め、国内外学術誌論文3本、国際学会発表4件、国内学会発表1件という成果をあげることができた。 また、3月には翌年度予定の調査を前倒しし、通常の調査より長めに滞在し、翌年度調査予定の項目についてデータを収集するとともに、一部精緻化作業を行なった。また、長期の滞在により、通常の短期の調査時にはあまり触れることのない、伝統文化や農作業等についても実際に接することができた。これにより、伝統的な生活の場で使用される八丈語のデータ収集と新たな話者の開拓ができたことは、今後の調査・研究の発展に資するものである。 一方で、研究協力者とのスケジュール調整が難航し、絵の作成が進んでいないため、紙芝居の完成が遅れている。しかし、紙芝居のテキスト作成自体は予定以上に進んでおり、また、今年度から新たに始めた文学作品の八丈語訳資料等についても順調に進展している。研究上の問題というよりはスケジュール上の問題であるため、平成31年度からは新たに協力者を求め、イラスト作成を依頼した。これにより平成31年度後半期までには遅れを取り戻せる予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成31年度(令和元年度)は、言語継承資料作成に傾注する予定である。これまで通り記述文法書の作成を進めていくことに加え、教科書、会話集等の諸資料を拡充させていく。また、これらを使用し言語継承を実践していく環境の構築を模索している。現時点では未確定の部分が多いが、教育委員会や島民、他の研究者を交えた研究グループを新しく作り、本研究助成で作成した資料を使って学習環境の整備・実践していく予定である。 文法記述に関しては名詞の格体系について記述を行なうとともに、用例採集に努める。特にゼロ格については共通語の影響による省略なのかゼロなのかという問題が付きまとうため、自然談話音声の分析と、話者との協働作業によるテキストの精緻化により分析を進めていく。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由については、3月に八丈島において長期滞在し調査を行なった際の経費が平成30年度の予算残額を上回ったため、4月1日現在、まだ請求されていないためである。平成30年度は予定より研究スケジュールが進んだため、前倒し支払い請求を行なったが、2・3月中にさらに予定を進めることが可能と判断し、予定していた調査スケジュールを見直し延長し、また、一部日程では研究協力者を帯同して行なった。以上の理由から旅費が予定よりも増え、平成30年度までの予算では捻出しきれなくなったため、翌令和元年度の予算で捻出することとし、支出可能となった段階での精算を行なうこととした。
|