2019 Fiscal Year Research-status Report
日本語とりたて詞の複合における否定呼応現象の統語と意味
Project/Area Number |
18K12393
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Research Institution | National Institute for Japanese Language and Linguistics |
Principal Investigator |
井戸 美里 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 理論・対照研究領域, プロジェクトPDフェロー (20802606)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 日本語文法 / 否定呼応 / とりたて詞 / 統語と意味のインターフェース |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「...しか~ない」「...などは~ない」「...くらいも~ない」などの「とりたて詞」と呼ばれる語群が否定と呼応する現象を対象に、否定呼応現象とは、どのような意味を持つ語を、どう組み合わせたときに起こるものなのか、その統語と意味のメカニズムを明らかにすることを目的としたものである。特に日本語は、他の言語では形態を持たない要素が、とりたて詞として顕在化している点で言語学的分析に好適な言語であり、否定呼応現象について構成的な分析を可能にすることが期待できる。本年度は、特に以下の(1)-(3)の分析を行った。
(1) 昨年度、否定と呼応するとりたて詞とそうでないとりたて詞の意味の違いについて、特に「だけ」と「…しか~ない」の意味を比較し、先行研究で指摘されていた「前提」を用いた分析ではなく、maximalityを用いた分析が有効であることを示した。今年度は、この分析の形式化を進めた。 (2) 否定呼応を起こすとりたて詞には話者の否定的な評価を表すものが多く含まれるが、「話者の否定的評価」とはどのようなものなのか、具体的な内容は指摘されてこなかった。本研究では、評価を表すとりたて詞は「話者の適切性に関する信念と談話で導入された命題が矛盾している」という場合に用いられる談話マーカーとして分析できることを示した。さらに、評価を表すとりたて詞の否定呼応が否定辞を必要としない場合について、談話レベルで分析することで統一的に捉えることができることを示した。 (3) 昨年度に引き続き、とりたて詞の否定呼応現象に関連する現象として、否定呼応を起こす副詞の分析を実施した。今年度は特に、否定呼応を起こす副詞にはとりたて詞の否定呼応と似ているものと、そうでないものがあることを統語・意味解析情報付きコーパスを用いて示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、2本の論文が公開され、1本の論文を入稿し採録が決定した。また、1本の論文を現在投稿中である。さらに、多数の研究会で成果発表を行った。これらの成果から判断して、本研究はおおむね順調に進展しているいえる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)の研究成果は個別の形態の分析にとどまっているが、今後はmaximalityを用いた分析ととりたて詞の否定呼応現象との関連を広く明らかにしていく必要がある。特に、(2)の談話レベルで否定呼応現象を捉えるべきとする分析との関連を明らかにすることが求められる。
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Causes of Carryover |
申請者の妊娠・出産に伴う体調管理と産休・育休のため、予定していた学会参加、学会発表が複数延期になった。予定していた研究発表は、育休からの復帰後に行う。
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