2021 Fiscal Year Research-status Report
日本語とりたて詞の複合における否定呼応現象の統語と意味
Project/Area Number |
18K12393
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Research Institution | National Institute for Japanese Language and Linguistics |
Principal Investigator |
井戸 美里 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 理論・対照研究領域, プロジェクト非常勤研究員 (20802606)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | とりたて詞 / 評価副詞 / 否定呼応 / 語用論 / 意味論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「...しか~ない」「...などは~ない」「...くらいも~ない」などの「とりたて詞」と呼ばれる語群が否定と呼応する現象を対象に、否定呼応現象と は、どのような意味を持つ語を、どう組み合わせたときに起こるものなのか、その統語と意味のメカニズムを明らかにすることを目的としたものである。特に日本語は、他の言語では形態を持たない要素が、とりたて詞として顕在化している点で言語学的分析に好適な言語であり、否定呼応現象について構成的な分析を可能にすることが期待できる。2021年度は特に、とりたて詞の否定呼応現象には前文脈との関係などの談話的要因が関わっていることを示し、否定辞そのものは重要でないことを示した点で進展があった。具体的には、以下の(1)から(4)の研究を行い、成果を発表した。 (1)とりたて詞「は」が否定とともに用いられて部分否定を表す現象((例)「全部は食べなかった」)について、先行研究の否定ととりたて詞のスコープ関係によるアプローチが妥当ではないことを示し、「は」が部分否定を表す現象は、共起する述語が非到達を表すものであることが重要であることを指摘し、学会で報告した。 (2)とりたて詞の呼応現象について、先行研究のアプローチが形式的、意味的なものに偏っていることを指摘し、談話的な観点が重要であることを示す現象を集めたワークショップを開催した。 (3)昨年度に引き続き評価副詞の否定呼応現象について、コーパスで現象を整理して発表したものを、意味的・談話的アプローチから分析し、共著で論文を執筆した。 (4)博士論文に2018年から2021年までの研究成果を反映させた内容で書籍の原稿を執筆し、「研究成果公開促進費(学術図書)」に申請し採択された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、本研究の主な研究対象であるとりたて詞の否定呼応現象について、否定辞そのものは重要ではなく、前文脈との関係などの談話的な要因が重要であることを示し、現象を記述整理し、その成果を学会発表やワークショップ、論文執筆などで精力的に公開できた。また、これまでの研究成果を書籍の原稿としてまとめ、それが刊行されることが内定した。以上から、2021年度は当初の計画以上の成果を得ることができたと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、(1)(2)の成果をより洗練させ、国内外の学会・研究会で研究成果を公開し論文を執筆するほか、(4)の原稿の最終調整と校正作業を進めるなど、本研究計画の最終年度へ向けて、現象の記述・分析から、研究成果の公開のほうに比重を多くしていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、各種学会・研究会が中止またはオンラインに移行した結果、旅費などが大幅に抑制されたため。
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