2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K12395
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Research Institution | National Institute for Japanese Language and Linguistics |
Principal Investigator |
佐藤 久美子 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 研究系, プロジェクト非常勤研究員 (60616291)
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Project Period (FY) |
2019-02-01 – 2025-03-31
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Keywords | 自然談話 / データベース / 方言 / 無アクセント / イントネーション / 茨城方言 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、茨城県高萩市下君田地区での対面調査を行った。無アクセント方言である茨城県高萩市下君田方言の高齢層話者二名の自然談話データ2時間分を収録し、その一部をデータベース化して一般公開した。公開したのは音声・方言テキスト・標準語訳テキストの三つである。発話単位に区切った音声に、方言テキストと標準語訳テキストを紐づけている。また、標準語訳テキストには、フィラーや言い淀みなどの談話情報をタグとして付している。 本研究ではこれまでに、文レベルにおけるイントネーションの分析に基づいて、(i)下君田方言の基本のピッチパターンが山型(High-Low-High)であり、最後のHighが消失する場合があること、(ii) (i)のピッチパターンが生じる最小のドメインは文節であること、(iii)基本のピッチパターンが複数の文節にまたがって生じるドメインの拡張現象が見られることを明らかにしている。 ドメインの拡張がどの程度許容されるか、その現象の発生条件がどのようなものであるかという問題は未だ解明されていない。それを解明するためには、これまでの文レベルの分析だけでなく、文を超えた談話レベルの観察が必須である。昨年度・今年度に収集した自然談話データを用いた予備的な調査は、話者間の発話ターンとフィラーがピッチ変動と連動している可能性があることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現地調査の日程調整が難しく、予定通りにデータの収録が行えなかったため。また、方言テキストの精緻化を目指し、文字化の規則を再考したため、データ整備に遅れが出た。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、茨城県高萩市下君田方言におけるドメインの拡張現象について、「拡張がどの程度許容されるか」「拡張の発生条件はどのようなものであるか」という二点を明らかにする。そして、談話理論に基づいて、ドメイン拡張の仕組みを説明する。具体的な方策は以下の通りである。 【1. 自然談話データのラベリング】日本語の韻律ラベリングスキームX-JToBIを援用し、1時間分の自然談話データのラベリングを行う。その過程で、基本のピッチパターンである山型(High-Low-High)が生じるドメインを特定する。その結果を整理し、ドメインの拡張が起こる場合、どの程度の長さ(文節数)が許容されるのかを明らかにする。 【2. 拡張の発生条件の考察】ドメイン拡張の条件を検討するため、談話情報である「発話ターン」と「フィラー」に着目し、拡張が談話のどのような局面で生じているのかを明らかにする。そして、ドメイン拡張が情報構造におけるトピックとフォーカス、前提と断定という構成素の表示の一つである可能性を探る。 【3. 検証】当該方言の新たなデータ30分分を収録し、仮説の検証を行う。
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Causes of Carryover |
【次年度使用額が生じた理由】 今年度は旅費と人件費・謝金を計画通りに使用することができなかった。子の養育のために、当初計画していた現地での方言調査がスムーズに行えなかった。調査協力者の仕事の都合で調査時期が限定されているが、その時期に度々、子の病気(感染症)が重なってしまい、日程調整が困難になった。このため、調査出張に充てていた旅費が多く残ってしまった。また、現地ではネット環境が整っておらず、通信機器を利用しての遠隔調査も行うことができなかった。十分なデータが得られず、データ整備(文字起こし、音声分割など)に充てていた人件費・謝金の使用額が多く残ってしまった。手元のデータを用いて予備的な分析を進めていたが、十分な結果が得られなかったため、学会での発表には至らなかった。そのため、学会参加で見込んでいた旅費の使用額も残ってしまった。 【使用計画】 主に、現地調査3回(6月、9月、11月)、学会発表3回(日本言語学会、日本語学会、言語処理学会)のための旅費と、データ整備のための人件費・謝金に充てる。調査可能な時期を確保するために、調査協力者を増やして日程の調整を簡単にする。収録したデータは速やかに整備に回し、文字起こしと音声分割を行う。現在までに済んでいる予備的な分析を精緻化して、学会・論文で発表する。
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