2019 Fiscal Year Research-status Report
名詞句からの部分的抜き出しに関する共時的・通時的変異
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18K12415
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Research Institution | Aichi Shukutoku University |
Principal Investigator |
小池 晃次 愛知淑徳大学, 教育部門・センター, 講師 (50804431)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 共時的・通時的変異 / 名詞句からの抜き出し / 英語 / 生成文法 / wh移動 / 外置 / 循環的線形化 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代英語に関する昨年度の研究成果を踏まえて、2019年度は他言語における名詞句からの抜き出し現象を調査した。具合的には、現代英語と違って、現代スペイン語や現代ポーランド語は外項からでも前置詞句の抜き出しが許されるという事実に注目した。言語間におけるこの共時的変異はJimenez-Fernandez (2012)等の先行研究によって議論されてきたものの、分析の仕方については意見の一致が得られず未だに原理的説明に至っていないのが現状である。本論文はFox and Pesetsky (2005)の循環的線形化とGallego (2006)の位相推移を組み合わせることによって、当該の変異に妥当な理論的説明を与えることに成功した。また、研究を進めるなかで同じ筋の分析が日本語にも応用できることに気づいた。私の知る限り、日本語に関する経験的観察はHaegeman, Jimenez-Fernandez and Radford (2014)等の先行研究では言及されてこなかった事実である。こうして、2018年度に提案した理論的分析のベースは変えずにそれが説明できる経験的事実の範囲を着実に広げることができた。 しかしながら、上記の研究成果を論文の形でまとめているものの、目標とするLanguage Variation and Changeなどの海外学術雑誌における論文掲載という形で公表できていない。査読を通じて指摘された問題点を解決しながら、別の海外学術雑誌や国内学術機関誌あるいは論文集等へ投稿を試みたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上述したように、現代スペイン語や現代ポーランド語に関する研究成果はまだ学会発表や論文掲載という公表の段階には至っていない。また、申請当初の予定では2019年度は初期英語における抜き出し現象に着手する予定であったので、本研究の進捗状況はやや遅れていると評価する。こうした進捗状況を踏まえて、科研費による本研究課題の補助期間を1年間延長した。 日本英語学会から昨年度依頼された書評論文は執筆を終え、2回に渡る査読を無事に通過して学会機関誌English Linguistics 36巻2号に掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は新型コロナウイルスの影響により国内および海外における学会が中止されることが予想されるため、共時的変異に関する研究成果は論文投稿の形で公表する方法を優先的に採用する予定である。具体的には、近々かつての指導教官の記念論集の編纂が予定されているため、この論文集への投稿を当面の目標とする。 他方で通時的変異に目を向けると、初期英語においても外項から前置詞句の抜き出しが許されていたという事実を発見している。現時点ではおおまかなコーパス調査しか実施していないため、英語史における抜き出し現象の発達過程の詳細部を明らかにすることを目的とした徹底的なコーパス調査を実施する予定である。使用コーパスであるYCOE等は過去の研究課題で使い方は熟知しているため、予期せぬ問題が起きない限りデータの収集は2020年度のうちに終えられる計画である。
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Causes of Carryover |
【物品費について】2019年度の研究で必要となった論文の多くはオーブンアクセスの論文が中心であったため購入する必要性は生じなかった。一部の研究図書は私物として書き込みなどをしたかったため私費で購入した。 【旅費について】第37回日本英語学会は本務校の入試監督業務と日程が重なったため参加することができなかった。しかし、この大会の議事録であるJELS37号を購読することで研究発表およびシンポジウムの内容を知ることができたため本研究を進めるにあたって大きな支障は生じないと考える。 【使用計画について】スペイン語やポルトガル語に関する論文はすでに入手できているが、日本語に関する論文は十分に入手できていないためNatural Language and Linguistic Theory等の電子ジャーナルから論文を購入する必要がある。これは2020年度へ繰り越す物品費で購入する予定である。旅費に関しても同様に、2020年度へ繰り越す旅費から学会参加にかかる費用をまかなう予定である。ただし、新型コロナウィルスの影響でいくつかの学会の中止が予想されるため、その場合には未使用分の旅費を返金する。
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