2020 Fiscal Year Research-status Report
名詞句からの部分的抜き出しに関する共時的・通時的変異
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18K12415
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Research Institution | Aichi Shukutoku University |
Principal Investigator |
小池 晃次 愛知淑徳大学, 教育部門・センター, 講師 (50804431)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 共時的・通時的変異 / 名詞句からの抜き出し / 英語 / 生成文法 / wh移動 / 外置 / 循環的線形化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は英語だけでなく他言語における名詞句からの部分的抜き出しにも研究対象を広げ、研究成果を論文の形できちんと公表することを目標に設定した。具体的な言語としてイタリア語を取り上げ、外項からの部分的抜き出しが英語では不可能であることと対比してイタリア語では可能である事実にFox and Pesetsky (2005)の循環的線形化の観点から原理立った説明を与えた。英語やイタリア語のどちらかを単独で扱った文献は数多くある一方、両方の言語を統一的に扱った文献は非常に少ないため、そうした対照言語学的研究の一端として、本研究は一定の理論的貢献を果たすことができた。この研究の成果は2022年に出版予定である記念論文集へ投稿済みである。 また、研究を進めるなかで循環的線形化に基づく説明が名詞句以外からの抜き出し現象にも当てはまることを発見した。具体的には、wh島、付加部の島、複合名詞句の島、文主語の島などである。Ross (1967)以来、これらの島はどれも省略による文法性の改善効果を示すことが観察されてきたため、本研究が提案する線形化に基づく分析が経験的に強く支持される結果となった。こうして、研究開始当初に予想していたよりもずっと広い経験的範囲の抜き出し現象に対してこれまで探求されてこなかった線形化という観点から新しい分析を与えることに成功した。 さらに、主語・助動詞倒置という新しいテーマにも着手し、この研究の成果の一部は第39回日本英語学会における研究発表に投稿済みであり、現在審査中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度から残った課題であった他言語における部分的抜き出しに関する研究成果の公表は、記念論文集への学術論文の投稿によって見通しを立てることができた。この論文が公表されれば、申請当初に計画していた研究範囲の考察は無事に終えられる。 さらに研究を進めるなかで、wh島や付加部の島などからの抜き出しにも外項からの抜き出しと同様の分析が当てはまることに気付いた。これらの島に関する主要文献であるFox and Lasnik (2003)などを精読し、理論的分析の細部を検討している最中である。申請当初は名詞句からの抜き出し現象だけをテーマとして想定していたので、名詞句に限定されずもっと広い範囲の抜き出し現象に分析を拡張できたという点で、本研究は当初の計画以上に進展していると評価できる。 そのうえ、来年度以降新しい研究課題へスムーズに移行するために、主語・助動詞倒置という新テーマにも着手している。次年度以降の研究のための基盤を作り始めている点でも、本研究は予想以上に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
wh島や付加部の島に関する分析は頭の中で構想を十分に練ってはいるものの、その研究成果を公表する段階には至っていない。そのため、島の効果に対する線形化に基づく分析というトピックでひとまとめにして学会発表や論文投稿を行なうことを目標にしたい。 また、新テーマである主語・助動詞倒置に関する学会発表の審査結果も採否がどちらであっても真摯に受け止め、改善や修正を加えることで次年度以降の研究に繋げたい。
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Causes of Carryover |
【物品費について】本研究を進めるにあたって最も必要な論文の1つであったDen Dikken (2007)はオープンアクセスによって無料で入手できたため購入する必要は生じなかった。その他のいくつかの関連図書も購入しなくても大学図書館で閲覧することができた。一方で、A Comprehensive Old-English Dictionaryは大学図書館にも所蔵されておらず、そのうえ古書であったため購入せざるを得なかった。 【旅費について】第38回日本英語学会は新型コロナウィルスの影響でZoomを使ったオンライン形態で開催された。そのため、移動費や宿泊費は生じなかった。 【使用計画について】 最新の理論的動向を知るためにSyntaxなどの学術雑誌から本研究と関連する論文をいくつか購入する必要がある。これらの論文は2021年度へ繰り越す物品費で購入する予定である。また、研究発表を投稿した第39回日本英語学会に掛かる移動費や宿泊費は2021年度へ繰り越す旅費から支払う予定である。現在、開催形態は対面かオンラインか未定だが、オンライン開催であった場合、未使用分の旅費は返金する。
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