2019 Fiscal Year Research-status Report
外交における日本語教育:ソフトパワー戦略、ディアスポラ戦略と教師の主体性
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18K12422
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
本林 響子 お茶の水女子大学, グローバルリーダーシップ研究所, 准教授 (40772661)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ソフトパワー戦略 / ディアスポラ戦略 / 外交における日本語教育 / 教師の主体性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、移民送出国家による自国出身海外在住者及びその子孫の活用戦略である「ディアスポラ戦略」という概念を援用し、日本政府による海外日系人への継承日本語教育支援政策を分析した研究(Motobayashi 2015, 2016)を発展させるものである。これまで、日本外交における日本語教育政策研究においては、主にソフトパワー戦略の観点から海外日本語振興政策について一定の知見が積み上げられてきたが、ディアスポラ戦略的側面についてはあまり検討されていない。本研究では、2種類の公的ボランティアプログラムの分析を通し、「ソフトパワー戦略的日本語教育」と「ディアスポラ戦略的日本語教育」の比較検討を行うことで、言語政策におけるディアスポラ戦略とソフトパワー戦略との相互補完性 (課題1)を検討する。また、「ディアスポラ戦略的日本語教育」へのボランティア参加者の追跡調査を行い、個人と政策との関係性 (課題2)を考察したい。 本研究の課題1(ディアスポラ戦略とソフトパワー戦略との共時的比較)においては、日本語教育が日系人政策および文化外交の中にそれぞれどのように位置付けられているか、また両者の相互補完性はどのようなものか、について検討する。ここでは、政策面の比較に続いてインタビューデータの分析を行う。 これにより、よりソフトパワー戦略的な日本語教育と、ディアスポラ戦略的な継承日本語教育との相違点、共通点および相補性についてミクロとマクロの両面から明らかにしたい。課題2(ディアスポラ戦略に関わる個人の通時的分析)においては、既刊論文のためにインタビューを行った日系ボランティア参加者の追跡調査を行い、ボランティア派遣期間中と帰国後の経験について聞き取りを行う。この追跡調査をもって、当該ボランティアへの参加前、参加中、参加後の個人の軌跡を丁寧に掘り下げ、政策が個人に及ぼす実際の影響を明らかにしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成31年度は、課題1について昨年度に引き続き理論的枠組みと先行研究の整理、政策文書の分析を行うとともに、課題2である個人の社会言語的軌跡の通時的分析に取り組み始めた。とりわけ、個人が言語の経済性をどのように捉え、どのような行為でそれを最大化させようとしているかを捉えるために有用と考えられる「投資としての言語学習」 「消費としての言語学習」「言語の商品化」の概念を再検討し、応用言語学における言語の経済性の理論的な整理を引き続き行っている。これに関連し、移動研究の知見、とりわけ中間層的移動者(middling transnationals)に関する研究結果を援用し、移動研究と応用言語学双方の知見を参照しつつ、言語教師として国際移動を行う個人の業務と余暇の統合的形成過程を解釈する作業を行っている。 本研究の結果は他国の事例との比較検討においてより適切に把握されるものと考えられる。また、当該分野においては日本の事例を理論的な解釈とともに発信することも重要である。そのため、平成30年度は本研究で得られた成果に基づき国際学会での発表1件を行うとともに、海外における招待講演の一部としても発表した。また、国内においてはシンポジウムでのパネリストとしての発表も一件行い、研究成果の一部を紹介した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度、平成31年度の成果を踏まえ、今後は課題2の追加聞き取り調査を進める。調査の手法としては半構造化インタビューを行い、ボランティア期間中の経験および帰国後の経験を語ってもらう。この追跡インタビューを既刊2論文の結果と照らし合わせ、長期的なスパンでの研究参加者の経験とマクロな社会政策的文脈の関連をより深いレベルで明らかにしたい(参考:Heller 2007, 2011)。 課題1、課題2とも、インタビューの結果は文字に起こし、解釈学的アプローチに基づいて質的に分析を行う。第一段階ではデータを文字化し、キーワードおよび鍵となるテーマを抽出し、その重要性や相互の関連性について分析する。第二段階においては、第一段階で抽出したキーワードやテーマに即して、間テクスト分析および間言説分析を行う(参考:Johnson 2015)。 理論面においては、「投資としての言語学習」 「消費としての言語学習」「言語の商品化」等、応用言語学で言語の経済性の議論において用いられる概念の批判的な再検討を継続して行う。これらは、今後の個別事例の分析のための重要な理論的下地となると思われる。 本研究の結果は他国の事例との比較検討においてより適切に把握されるものと考えられる。また、当該分野においては日本の事例を理論的な解釈とともに発信することも重要である。そのため、得られた結果は積極的に国際学会等で発表し、論文として投稿する。
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Causes of Carryover |
2020年2月頃からの新型コロナウイルス感染拡大のため、2019年度(2020年3月)に米国で予定されていた学会が中止の上オンラインで仮開催された。このことにより、状況が落ち着いた上で対面開催される別の学会でフィードバックを受ける機会を次年度以降模索しており、当該学会用の予算はその機会に振り替える予定である。 また、2020年6月および7月に予定されていた国際学会2学会がそれぞれ一年延期となった。これら学会、特に6月の学会用の草稿について、6月の学会発表のために2019年度中(2020年2月・3月)に第一次英文校正等に出す予定であったが、学会開催時期を勘案し、次年度に繰り越すこととした。 その他、物資の輸送に一部混乱が見られるとの情報があったことから、国外から取り寄せる一部資料について、2019年度末(2020年2月・3月)に発注予定であったものの一部を次年度に発注することとした。
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