2020 Fiscal Year Research-status Report
近世琉球王国における評価貿易の史的展開とその構造分析に関する研究
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18K12492
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Research Institution | Okinawa University |
Principal Investigator |
前田 舟子 沖縄大学, 経法商学部, 准教授 (70802859)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 評価貿易 / 冊封使 / 評価方日記 / 蘇州碼 / 中琉間交渉 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度では、清代の福建系貿易商人(海商)について調査する予定だったが、新型コロナウイルスの影響で実現できなかった。そのため、中国や台湾の先行研究といった文献資料に依拠して研究を行わざるを得なかった。特に台湾では、福建系商人が数字記号として用いた蘇州碼の研究が進んでおり、評価貿易の価格記号解読に大きく裨益するところとなった。また、これまでに収集した尚家文書の冠船関係資料の中から評価貿易に関係する日記を抽出して解読を行いながら、従来の評価貿易の研究史を整理しまとめた。その中で、康熙58(1719)年に、清朝側(福建商人)と琉球側(王府役人)が衝突した評価事件に着目し再考を加えた。 当時、康煕帝の命令による「皇輿全覧図」の作成が進行中で、1719年の冊封使節団には2名の測量官が随従していた。一行は600名という琉球史上最多の人数で、それは琉球にとって寝耳に水であり、琉球側が用意した当初の予算を大幅に超過していた。そのため、一行が琉球に持ち込んできた商品をすべて買い上げることができず、両者は激しく衝突した。その折衝役となったのが久米村出身の蔡温であった。当初は久米村の程順則が交渉役であったが、後に蔡温に一任している。その理由は、冊封使との交友関係に亀裂が入るのを恐れたためとも言われている。蔡温は方々を走り回って資金を調達し、どうにか相手を説得することに成功し琉球の窮地を救った。その功績により、蔡温は久米村士族としては異例の三司官に昇進した。以後、本件によって蔡温と冊封使側の関係が劣悪になったとも言われているが、徐葆光の詩文集には蔡温を讃える漢詩が収録されており、彼らの交友関係に評価貿易が何らかの影を落とした訳ではないことが伺えた。そのことについて、程順則・蔡温・冊封使徐葆光それぞれの人物像をまとめながら、彼らを中心に近世琉球の時代を描き、刊行予定の叢書の一章として投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は海外調査が実施できなかったため、当初予定していた計画を遂行することができなかった。具体的には、中国福建省で文献調査のほか、福建商人たちの足がかりとして貿易拠点となっていた地域や関連史跡を廻るという計画だった。それでも、本研究の2年目(2019年)に実施した台湾調査において、清代に台湾で商売を展開した福建商人の末裔を訪ねることができたことは幸いだった。直接に琉球の評価貿易に従事していたかどうかは不明だが、福建・台湾一帯に福建商人のネットワークが構築されていたことを伺い知ることができた。 また、尚家文書の中に多く含まれる冠船関係資料の中から、特に評価貿易に直接関係する日記を探して抽出し、それらの内容解読を行ってきたのだが、まだ全文の翻刻・翻訳作業は完了していない。近年は、満洲語で書かれた琉球関係档案資料が海外を中心に見つかっており、既存の未解読の琉球関係満文档案の解読作業(ローマ字転写・翻訳・注釈)も同時並行的に行っていることから、当初予定していた評価貿易の仕組みそのものや構造体系を立体的に描くまでには至らなかった。現在はもっぱら評価貿易の解読作業を中心に行っているところである。 先行研究を整理する中で、評価貿易実施時の組織改編、業務実態といったことをある程度は把握することはできたが、評価貿易そのものが琉球の冊封使来航に伴う「冠船業務」の一部を構成していることから、冠船業務全体の中における評価貿易の位置づけを丁寧に検討する必要があると考えている。その中でも冊封儀礼に関する業務が中心となっていることは分かっているのだが、他業務とのバランスをどのように捉えていたのかなどについてはまだよく分かっていないため、次年度に深く考察していきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度が本研究の最終年度となるため、これまでの調査研究の成果をまとめて発表したいと考えている。具体的な研究内容としては、①評価貿易の構造そのものの解明、②評価貿易をめぐる冊封使、福建商人といった清朝側の動向、③評価貿易に従事する琉球側の組織改編とその対応、④冠船業務全体における評価貿易の位置づけ、そして最後に⑤中琉間における評価貿易の位置づけである。ひとまず評価貿易の史料解読から完了させ、それらの史料とその他の傍証史料を駆使して以上の5点を解明したいと考えている。また、当該年度で発表したように、実際に評価貿易の交渉役になるなど、直接評価貿易に従事した琉球役人たちの家譜記録から、評価貿易に従事した人々の個人史についても可能な限りまとめてみたい。 このように、評価貿易の全体像を描き出すことができれば、中琉間の貿易として王国の根幹を成していた進貢貿易や、福建で行われる開館貿易との関連性を調べることができると考えている。本研究のまとめとして、琉球にとって評価貿易とは何だったのか、という問いへの答えを導き出したいと考えている。
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