2018 Fiscal Year Research-status Report
帝国経験のリアリティを伝える歴史研究・教育―開発主義と地域社会を軸に―
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18K12499
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
加藤 圭木 一橋大学, 大学院社会学研究科, 准教授 (40732368)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 植民地支配 / 朝鮮 / 歴史教育 / 開発 / 地域社会 / 国際交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、本研究課題の初年度にあたる。まず、関連する研究文献を収集し読み進めた。日本や韓国で出版された近現代史研究、特に韓国で刊行された3.1運動に関する最新の研究を重視して読み進めた。さらに、歴史教育の視点を重視する本研究では、戦争や植民地支配と歴史教育の関係に関する文献への調査も進めた。史料収集としては研究協力者を中心に、韓国の国家記録院や国史編纂委員会などでの調査を進めた。特に植民地期の農村の実態を示す行政文書を入手したことは重要である。 次に現地踏査等を実施した。具体的には、韓国のソウル・慶尚南道一帯である。日帝強制動員歴史館や義烈紀念館など植民地期の歴史を展示した博物館を見学することで、歴史表象や教育の方法について考察することができた。また、ソウル市立大国史学科の教員や、植民地期の社会経済史研究を専攻する若手の研究グループとも情報交換をすることができた。 これらの作業を前提として、植民地期朝鮮の歴史をミクロな視点で叙述した著作の執筆作業を進めた。また、植民地期朝鮮のイワシ漁業・加工業や公害問題について論文を執筆することができた。さらに、3・1運動や「明治150年」に関連して、研究者のみならず市民をも対象とした論考を複数発表することができた。 本研究が重点を置くのは歴史教育プログラムの開発であるが、その内容は以下の3点である。(1)日朝関係に関する高校生向けの授業プログラムを検討し、高校との連携授業を実施した。高校への訪問授業を3回にわたって実施し、その上で高校生と高校教員を一橋大学に招いて合同セミナーを開いた。(2)社会人向け教育プログラムについても検討し、準備した。(3)大学生が韓国で歴史を学ぶためのプログラムに同行し、国際交流と教育の関係についても検討を深めた。これらの作業と関連して、学生の歴史認識に関する論考を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、教育業務の増大に伴い、作業等の時間を十分に確保できないことがあった。また、韓国での調査を優先する必要があったため、他地域の調査が当初の計画通りにはできない部分があった。 しかし、書籍や論文、一般書などで研究成果を当初の計画以上に発表することができた。特に3・1運動100周年にあたって、一般雑誌に寄稿したり、多数の講演を行うことによって、歴史学・歴史教育と社会の関係に関する考察において、大きく前進することができた。また、高校との連携授業や社会教育プログラムの開発など、当初の計画を越えて、研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、引き続き、史料の収集と分析を継続するとともに、一般書籍の形での研究成果の発表を目指して執筆作業を進める。また、個別論文として、中朝国境地帯に関する論文の執筆を行う。 現地調査も積極的に進める。済州島地域などを中心に踏査を行い、地域レベルから戦争と暴力の歴史を論じる方法を検討する。次に、韓国の研究者との交流をさらに深める。特に植民地期の地域社会史に関する研究者ネットワークをこれまで以上に拡大する。 さらに、本研究の重要な柱である戦争や植民地支配、差別に関する教育の問題、学生や市民の歴史認識形成の問題を深めるために、学生向けの歴史教育プログラム、国際交流プログラムの開発作業を進めていく。これらの問題に関連して、1990年代以降の日本の植民地支配認識の変容について検討し、学会発表を行う。
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Research Products
(9 results)