2021 Fiscal Year Research-status Report
分野横断的な中世仏教文献の研究―南北朝期の新史料『梅林折花集』を中心に―
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18K12511
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
芳澤 元 明星大学, 人文学部, 准教授 (60795441)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 南北朝時代 / 中世宗教 / 天台談義所 / 東国史 / 悪人発心譚 / 室町文化 / 能楽 / 伊勢神宮 |
Outline of Annual Research Achievements |
期間延長して臨んだ今年度も情勢の好転をみず、『梅林折花集』(以下、同書)全文翻刻の校訂は思うように進まなかったが、同書を活用・関連させた関連研究の公表という課題には取り組むことができた。 (1)同書に登場する髭僧なる遁世者に注目し、中世後期の東国で宗教者が結んだ広域的交流網の展開を考察した。とくに、①14世紀中葉までの日元交流に触発された山林隠遁の広がり、②15世紀以降の天台談義所における信濃滋野一族望月氏の伝説化、③武田信玄の佐久支配や「東叡山」常陸千妙寺の青蓮院末寺化、という三段階から背景を指摘した。京都との関係を念頭に、14世紀から16世紀の関東甲信・南奥羽におよぶ東国社会を俯瞰しうる長期的・広域的視角を得るに至った。 (2)同書の情報源ともなった京都と地方の相互交流を中心に、広く室町文化を育む社会構造を論じた編著を公刊した。とくに、①技術や知識を介した都鄙間交流の媒介者やそれを規定した多様な地域性と、②詩書画・連歌・能・造園など一定の規格で標準化され「室町的な古典」と呼びうる和漢の総体が各地勢力に共有された通有性という、両面性の問題を新しい例証に基づいて論及した。異文化の混融や衝突の様態を構造的・動態的に捉えることで、単純な日本文化優越論や舶来文化受容論の二者択一を克服し、文化論の射程から室町時代像を描き直すことも主張した。 (3)同書と同じ中世宗教に関するものとして、①鎌倉武士から戦国武将にいたる武家や公家・有徳人が所持した居士号の階層性を述べた論考、②室町幕府と五山の政教関係や寺院経済に関する概論、③能「絵馬」が描く伊勢斎宮絵馬神事の実態を分析した論文を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
全文翻刻の校訂・調査という点では順調とはいえなかったが、関連論文成果の発表という点では相応の成果を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
全文翻刻作業で残された問題箇所の検証を中心に慎重に進める。直接・間接の成果公表も継続的に進める。
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Causes of Carryover |
2021年度も蔓延防止政策などで調査出張が一切実施できない状況が好転しなかったことが大きい。研究期間延長を再申請し、最終年度の研究費を保たざるをえなかった。次年度は物品費の枠も含めて適正かつ柔軟に対応し、研究を実施することとする。
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