2020 Fiscal Year Research-status Report
初期近世西地中海地域の「境域」における異教徒間関係の形成
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18K12518
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
篠田 知暁 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (50816080)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | モロッコ / イスラーム / 法社会史 / 写本研究 / 境域 / 部族 |
Outline of Annual Research Achievements |
スペインの科学研究高等評議会が年2回発行しているアラブ・イスラームに関する人文学研究の専門誌al-Qantaraに投稿している、16世紀モロッコ地域北西部の山地におけるイスラーム知識人らによる部族社会の法的規範改良運動に関する論文の査読が終了し、修正のうえで採用となった。修正作業は2020年末に終了し、編集部に送付したところ、印刷待ちのリストに追加されたことが通知された。この論文により、15世紀以降同地域がムスリムとキリスト教徒の境界領域となったことが、地域の宗教的エリートによる自らの社会状況への反省的な視点の誕生を促したこと、ただしその結果構想された社会は、緊張した社会状況を半円してか、きわめて権威主義的で家父長制的なものであったことを明らかにした。この論文は、2021年中には出版されることを期待しているが、正確な時期は不明である。 上記の作業と並行して、17世紀初頭に同地域の部族民の村で起きた「駆け落ち騒動」の裁判について伝える、アラビア語の法学文献の分析作業を進めた。現存する2写本をもとにテクストを翻刻し、出版を目指して英訳を行った。現在3/4程度終了しているが、英語の質は十分とは言えず、最後まで訳した後で再度訳しなおす必要があるだろう。 また、12月末にはこの事件の裁判の経緯に関する記述をもとに、部族民たちの村でイスラーム法に基づいた裁判がどのように行われていたか、また、都市の法学者らによる議論は、部族民たちの問題解決のためにどのように利用されていたかについて分析し、マグリブ研究の専門家による勉強会で報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、査読を受けた論文の修正と、アラビア語史料の分析・翻訳が、作業の中心となった。しかし、昨年春以降深刻化したコロナウイルス感染症により、現職の本来の任地であるレバノンのベイルートに荷物を置いたまま、一時帰国を余儀なくされた。夏までは日本もレバノンも状況は落ち着きを見せていたが、その後まずレバノンで、秋以降は日本で感染状況が深刻化し、任地に戻るめどがつかなくなってしまった。もともと報告者の分野は日本に研究者が少なく報告者しか所有しない文献が多数あるうえ、秋以降は地方の住居から首都圏の研究大学の図書館にアクセスすること自体困難になってしまった。査読論文の修正作業中にも、査読者から追加するよう提案された文献が国内で入手不可能であったため、編集部を介してやり取りしながら、修正内容を検討しなければならなかった。 また、報告者の研究対象であるモロッコの状況も深刻で、現地での資料調査も行える状況にはなかった。そのため、論文の執筆や報告の準備の際にも、重要な論点で改めて確認しなければならないことがあるようなテーマは避けざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度もモロッコ・レバノンの両国とも入国できないリスクに鑑みて、研究実績報告で言及した「駆け落ち騒動」に関する裁判記録の翻訳と翻刻テクストの見直し、および国内学会での内容の紹介と分析に関する報告を中心に進める。5月16日にはオンラインで開催される日本中東学会の年次大会で、地方の部族社会の中に暮らす法学者たちがどのように再生産され、都市の高名な法学者や、同門の法学者たちとどのような関係を形成していたかについて論じる予定である。また、地方の法学者が、家族制度に関する部族のローカルな習慣をどのようにしてイスラーム的な法的規範の中で正当化していったかという論点であれば、既存の出版物でも作業を進めることの可能であるため、今年度後半に向けての課題とする。これらの研究の論文化についても、準備を進める。 また、11月にカナダで開催される予定の北米中東学会で、16世紀初頭のモロッコ北部の統治者たちとポルトガル王国との外交関係の形成について報告する予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度中コロナ問題でモロッコやポルトガルで予定していた調査ができず、夏に予定していたイギリスでの国際学会報告もオンライン開催となってしまった。それどころか、レバノンの任地から実家に一時帰国し、いつ戻れるのかわからない状況が続いていたため、大型の物品の購入を控えていた。そのため、助成金が未使用のまま残ってしまった。しかし当分任地に戻るめどが立たないため、まず作業に必要なPC環境の改善のため、その購入に充てる。また、11月末カナダで開催される国際学会に出席できれば、その旅費に使用する。この国際学会と7月のオンラインでの国際学会で報告を予定しているので、その英文校閲にも使用する。年末から年明けにかけて状況が許せば、モロッコでの資料調査も行いたい。
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Research Products
(2 results)