2019 Fiscal Year Research-status Report
18-20世紀におけるボンベイ市の経済発展 -インド史からの再考
Project/Area Number |
18K12521
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
小川 道大 金沢大学, GS教育系, 准教授 (30712567)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | ボンベイ / プネー / マラーター同盟 / 通関税 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、大英図書館およびインド・マハーラーシュトラ州立文書館ムンバイ本館(ムンバイ文書館)での英語史資料の調査を前年度に引き続いて行い、さらに同州立文書館プネー分館(プネー文書館)において、現地語であるマラーティー語史資料の収集を開始した。 本研究は二つの研究課題を設定している。第1課題「ボンベイ市内部の市場形成」に関しては、ボンベイ港トラスト(Bombay Port Trust)の報告書(大英図書館所蔵)を1870年代から1914年まで収集し、前年度に分析した19世紀前半におけるボンベイ市内の貿易拠点の情報よりもさらに詳細なデータが19世紀後半に関して得られた。これによりボンベイ市内の各波止場における輸出入品の項目、各波止場の貿易相手地域・国が明らかとなり、中国へのアヘン輸出を独占的に行う波止場の存在などが明らかになった。 第2課題「ボンベイ市の後背地経済への影響」に関しては、18世紀後半にボンベイから、インド西部の現地勢力マラーター同盟の中心都市プネーに運ばれた商品への通関税に関する現地語の記録を、プネー文書館で見出した。イギリス東インド会社は、マラーター同盟から通関税の支払いを免除されていたが、同会社の関連業務に従事するインド商人には課税されており、通関税記録が得られることがわかった。記録の全体像をつかむことが2020年度の課題となる。通関税記録には商品、運搬者、運搬手段等が記されており、現状ではごく限られた枚数の記録が得られたにすぎないが、分析を徐々に始めていく。 さらに第2課題に関連して、1818年のインド西部の植民地化に伴うプネー市からボンベイ市への政治経済機能の移転に関する論考を、アジアにおける都市史研究の一環としてまとめた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、英語史資料と現地語(マラーティー語)史資料の分析により、英領インドにおけるインド西部の中心都市となったボンベイ市の経済発展を、18世紀後半から20世紀初頭にいたる長期にわたって、すなわちインド西部の植民地化に前後する時期について考察することである。2019年度は前年度に引き続いて大英図書館とムンバイ文書館で英語史資料の収集を行い、統計資料や日録などの種々の記録を申請時の計画通りに、概ね収集を完了した。英語史資料は、今後の研究進展に応じて補助的に収集するにとどめ、2020年度以降は、主にその分析と考察を行う。この点において、申請時の計画通りに研究が進んでいるといえる。 現地語(マラーティー語)史資料に関しては、国内外の先行研究において、前植民地期におけるムンバイ市と後背地を結ぶ交易に関する記録が用いられたことは、管見の限りではほぼ存在せず、この史資料収集は新たな挑戦といえる。プネー文書館の通関税記録の部門において、商取引地域別の記録に属する、種々雑多な記録(Miscellaneous Records)の中にボンベイ市からの通関税記録が得られたが、得られた事例はごくわずかであった。前植民地期のボンベイ市と後背地を結ぶ史資料を得るには、現地でのさらなる史資料調査が不可欠であり、その点において「計画以上に進展している」とはいえず、現在の進捗状況を「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後の最大の課題は、前植民地期におけるボンベイ市と後背地の交易を示す現地語(マラーティー語)の記録収集をプネー文書館で継続することで、より多くの内陸交易の記録を得ることである。2019年度にわずかに得られた記録は、ボンベイと後背地との交易において、イギリス人と異なり、通関税を課されたボンベイのインド人商人に関する事例であった。 プネー文書館の通関税記録の部門には、商人別に整理された記録群が存在する。この記録群から、ボンベイ市と後背地の取引に従事した商人の記録を得ることで、ボンベイ市の後背地への経済的影響について、より詳細な史資料が得られる可能性が高い。ただしその前段階として前植民地期である18世紀後半に、ボンベイ市と後背地の交易に関わったインド商人の名をできるだけ多く、可能であれば網羅的に調べ上げる必要がある。インド人商人の名に関しては、これまでにプネー文書館で収集した現地語(マラーティー語)の非公刊史料に加え、公刊史料集などからも探し出すことができる。さらに18世紀後半の英語史資料からもボンベイで活躍し、プネーなどの内陸都市と商取引を行ったインド人商人の名を見出すことができる。その上で、プネー文書館において、商人別に整理された通関税の記録群から、ムンバイ市と内陸都市との交易を記した史資料を収集することを目指す。 しかし2020年度初めにおいて、インドへの渡航が極めて困難な状況にある。現地語の通関税記録は、プネー文書館以外で見出すことができず、同文書館での調査が必須となる。まずは文書館調査の前段階となる、ボンベイ市と後背地の交易に従事したインド人商人のリストを作成することを今後の当面の課題とする。そしてその後の状況変化に応じて、プネー文書館での史資料調査の再開を目指す。
|
Causes of Carryover |
2019年度におけるインド・プネー市での調査期間が、研究進度および文書館の開館日などの日程的な要因によって2-3日ほど予定より短くなった。この旅費相当分が上記の残額であり、2020年度以降のプネー市(プネー文書館)での旅費に充てる予定であるが、状況的に現地調査が困難な場合は、デジタル版や書籍での史資料購入の費用に充てる。
|