2020 Fiscal Year Research-status Report
清朝中期漢地政策の変容とその社会経済的背景の再検討(1736-1854)
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18K12522
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
豊岡 康史 信州大学, 学術研究院人文科学系, 准教授 (30712559)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 清朝史 / 経済史 / 政治史 / 嘉慶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は、研究計画に基づき、「嘉慶帝親政開始にともなう清朝自己像の転換過程」「アヘン戦争前の清朝自己像」についての検討を進め、村上正和・相原佳之・李侑儒・柳静我らとともに嘉慶四年八月の上諭について訳注を発表した(『人文科学論集』8)。そのなかで、すでに本研究課題において仮説として提示されている市場経済への関与を抑制する態度、あるいは漢人社会からの支持調達を念頭に置いた配慮などを指摘することができた。くわえて、嘉慶帝周辺は、皇帝自らが質素倹約を好むことを軸に18世紀までの清朝の財政拡大傾向を転換し、財政規模の抑制を行うことを正当化しようとする態度についても指摘できた。嘉慶帝が親政開始を期に大きく政策基調を切り替えていることが伺えるが、一方でこのような基調の切り替えは嘉慶帝個人のアイディアによるものではなく、清朝中枢が乾隆年間末期から準備してきたものと思われる。この点の補強を行っていきたい。
このほか、2021年6月刊行予定の『東洋史研究』(60-1)に、岩井茂樹『朝貢・海禁・互市』(名古屋大学出版会、2020)の書評を寄稿し、そのなかで清朝の海外政策を規定する内政をどのように扱うべきかについての問題提起を行った。このことは、本研究において検討される清朝の自己像規定において、「天朝」という対外的な強硬姿勢がひとつの要素として清朝の自己正当化の宣伝のなかで利用されていることを念頭においたものである。
今年度は、次年度以降の研究成果公表を念頭に、これまでに出版してきた上諭訳注とその他の論考をあわせて、19世紀清朝の政治体制についての書籍の刊行を目標に、出版社との打ち合わせも開始している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症の世界的流行に伴い、予定していた北京での史料調査は行い得なかったが、台湾における史料のウェブ上での公開が進み、また研究者間でのオンラインでの意見交換などもむしろ容易になったため、おおむね予定通り研究が進展したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度に際して、清朝が人口と経済的影響力を増す漢地にたいし、いかなる配慮を行ったかについて、研究成果をまとめて公刊する準備を主に進める。また、米価変動からみた経済構造変動に関する論文などの、学術雑誌への投稿を準備する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、国外における資料調査のみならず、国内に置ける出張も難しくなった。ただし、インターネットを通じた研究打ち合わせはむしろ容易に行い得るようになったため、研究計画上の支障はないが、支出額は予定よりも大幅に少なくなった。
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Research Products
(2 results)