2020 Fiscal Year Research-status Report
植民地期李王家の神聖空間に対する同時代的認識の研究-李王家陵園墓の検討を中心に
Project/Area Number |
18K12523
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
橋本 妹里 京都府立大学, 文学部, 研究員 (60814308)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 李王家 / 孝昌園 / 李王職 / 陵園墓 / 朝鮮貴族会 / 普植園 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度はCovid-19流行のため、国内外への移動が制限されたことから、韓国での現地踏査、日本での史料収集ともに実施できず、主に植民地期の朝鮮語新聞記事など、インターネット上に公開されているデータベースを中心に、資料収集、整理を行った。 これにより確認されたのは、朝鮮貴族会による林業組合「普植園」と設立と、その所有林野の李王家への譲渡、解散までの過程である。これは、李王家が本格的に森林経営に携わる契機となったと考えられる。 注目すべきは、普植園設立の目的が「一般人民に殖林思想と山林培養を鼓舞・奨励」するという、公的性質を持つものであったことである。そしてその設立は、朝鮮総督府の官僚斎藤音作の助言によるものであった。斎藤は総督府殖産局山林課長、営林廠長を歴任し、朝鮮林野図の作成や森林令の制定に携わるなど、植民地期初期の朝鮮山林行政を主導した人物であった。また「普植園」専任の技師には、斎藤の山梨県庁勤務時代の部下、遠藤安太郎が就任している。 つまり「普植園」の経営は、朝鮮の山林行政組織内の、斎藤にはじまる林業技術官僚の人脈に連なるものであったことが明らかとなった。 設立後、順調に成長していた普植園の林業経営は、第一次大戦後の戦後恐慌により経営危機におちいり、所有する林野のほとんどを李王家に譲渡し解散する。その事業は李王家に引き継がれ、その後の李王家の主要な収入源として機能するのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度はCovid-19流行のため、研究活動が制限されたことから、ほぼ進捗のない状況となった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、2020年度の推進方針を引き継ぎ、李王家森林経営の公的性格に焦点をあわせ、事例研究を中心に進めていきたい。 2020年度の研究成果からは、李王家の森林経営の前身ともいえる、朝鮮貴族会の林業組合「普植園」の公的性格を確認できた。その設立には植民地期初期朝鮮の山林行政を主導した朝鮮総督府官僚の斎藤音作が深く関与しており、「普植園」設立やその性格は、朝鮮総督府の意図が非常に反映されたものであったと考えられる。これはさらに斎藤が学んだ明治期に日本に導入されたドイツ林学の影響や、日本の華族の土地所有との関連性までたどる必要性が認められる。 それらを通じ「普植園」経営を引き継いだ李王家の森林経営の公的性格を検討すると共に、このような李王家の森林経営に対する同時代人の認識を検討していきたい。それにより本研究の目的である、植民地期李王家の神聖空間に対する同時代的認識について明らかにすることができるであろう。
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Causes of Carryover |
2020年度はCovid-19流行により、研究活動が制限されたことから、支出の発生が非常に少額となったため。 2021年度は、研究活動が正常に戻り次第、2020年度に支出予定であった物品の購入費などに使用する計画である。
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